研究課題
挑戦的研究(萌芽)
次世代シーケンサーを用いた網羅的核酸検出手法(メタゲノム解析)の普及に伴い、多様な新規ウイルスの検出が相次いでいる。新規ウイルスを対象とした研究の多くはウイルスゲノム塩基配列解析にとどまり、感染性ウイルスの分離を経て、その病原性や宿主域、自然界における存続様式といった解析まで至るものは少ない。本研究では、研究代表者が樹立した宿主プロテアーゼ強制発現細胞へ野生動物サンプルを接種し、公衆衛生上重要なウイルスを多く含むプロテアーゼ依存性ウイルスの分離を試みる。分離したウイルスの細胞指向性や病原性を解析し、ウイルスの自然界における存続様式や公衆衛生学的リスクを考察する。
計画2年目である本年度は、昨年度に齧歯類動物マストミスおよびコウモリから分離し、新規のロタウイルス遺伝子型に分類されることが判明したロタウイルスMpR12株、16-06株の性状を詳細に解析した。研究代表者が作出したMA104-T2T11D細胞を用いることで、MpR12株と16-06株の良好な増殖が認められた。細胞をノイラミニダーゼ処理すると、16-06株の感染効率は低下した一方、MpR12はその影響が認められなかったことから、両ウイルス株間で感染時の宿主シアル酸の利用能に違いがあることが示唆された。MpR12株、16-06株を経口接種した乳飲みマウスは下痢症を発症し、MpR12株に比べて16-06株の方が糞便へのウイルス排出がより多く認められた。MpR12株、16-06株を正常ヒト小腸上皮細胞から構築された小腸モデル3D培養系(SMI-100)へ接種し、ウイルスの感染、増殖を確認した。以上の結果から、野生動物が保有するロタウイルスの増殖性、細胞感染機構および病原性に関する知見が得られるとともに、潜在的な種間伝播の可能性が示された。これらの成果を取りまとめて論文発表した(Kishimoto et al. J Virol, 2023)。このほかに、インドネシアのコウモリ糞便から、ネルソンベイオルソレオウイルスを分離しPgORV株と命名した。PgORV株を用いた中和試験を行い、コウモリ血清133サンプル中108サンプルから中和抗体を検出した。PgORVの接種によりマウスは肺炎症状を呈した。以上の結果から、インドネシアのコウモリ集団中で、哺乳類に病原性を有するネルソンベイオルソレオウイルスの感染が生じていることが示された。これらの成果を取りまとめて論文発表した(Intaruck et al. Virology, 2022)。
2: おおむね順調に進展している
野生動物サンプルからプロテアーゼ依存性ウイルスであるロタウイルスの分離に成功し、その性状を解析するという当初の計画を達成するとともに、研究成果を論文発表した。
上記のウイルス(ロタウイルス、ネルソンベイオルソレオウイルス)に加えて、別のウイルスをコウモリから分離しており、次年度はそちらのウイルスの性状解析に着手する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Journal of Virology
巻: 97 号: 1
10.1128/jvi.01455-22
Virology
巻: 575 ページ: 10-19
10.1016/j.virol.2022.08.003