研究課題
挑戦的研究(萌芽)
次世代シーケンサーを用いた網羅的核酸検出手法(メタゲノム解析)の普及に伴い、多様な新規ウイルスの検出が相次いでいる。新規ウイルスを対象とした研究の多くはウイルスゲノム塩基配列解析にとどまり、感染性ウイルスの分離を経て、その病原性や宿主域、自然界における存続様式といった解析まで至るものは少ない。本研究では、研究代表者が樹立した宿主プロテアーゼ強制発現細胞へ野生動物サンプルを接種し、公衆衛生上重要なウイルスを多く含むプロテアーゼ依存性ウイルスの分離を試みる。分離したウイルスの細胞指向性や病原性を解析し、ウイルスの自然界における存続様式や公衆衛生学的リスクを考察する。
計画3年目(最終年度)である本年度は、インドネシアに生息するジャワオオコウモリ(Pteropus vampyrus)の糞便材料から哺乳類オルソレオウイルス(mammalian orthoreovirus, MRV)3株の分離に成功、MRV12-47、MRV12-48、MRV12-52と命名した。このうち、MRV12-52について、そのウイルス性状を詳細に解析した。全10分節からなるウイルスフルゲノム塩基配列解析の結果から、分離したMRV12-52はMRVの血清型2に分類されることが判明した。MRV12-52を経鼻接種したBALB/cマウスは、接種群の75%の個体において著名な体重減少を伴う致死的感染症状が認められた。感染マウス肺内のウイルス量は接種後3から5日目にピークに達し、病理組織学的解析ではマクロファージを主体とする炎症細胞の肺内浸潤が認められた。分離したMRVの性状解析の成果を取りまとめ、学術論文として投稿中である。本研究計画では、研究代表者が作出した宿主プロテアーゼ強制発現細胞を用いて、野生動物サンプルから感染性ウイルスを分離し、そのウイルス性状を解析することを目的とした。研究期間全体を通じて、ザンビアに生息するマストミス(齧歯類動物の一種)および食果コウモリから新規遺伝子型のA群ロタウイルス、インドネシアに生息する食果コウモリからはネルソンベイオルソレオウイルスと哺乳類オルソレオウイルスの分離に成功し、分離したこれらのウイルスのフルゲノム塩基配列、細胞指向性や病原性を明らかにした。いずれのウイルス種も人への感染が確認されており、野生動物が保有するこれらウイルスの一般性状を明らかにした本研究の成果は、学術的および公衆衛生上重要な基礎的知見となる。
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Journal of Virology
巻: 97 号: 1
10.1128/jvi.01455-22
Virology
巻: 575 ページ: 10-19
10.1016/j.virol.2022.08.003