研究課題/領域番号 |
21K19701
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分59:スポーツ科学、体育、健康科学およびその関連分野
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
飯田 薫子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50375458)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | インドキシル硫酸 / 腎不全 / 芳香族炭化水素受容体 / 筋萎縮 / 尿毒症性サルコペニア / ポリフェノール / フラボノイド / 慢性腎臓病 |
研究開始時の研究の概要 |
日本では成人の約8人に1人が慢性腎臓病(CKD)と推計される。CKDが進行すると筋萎縮や筋力の低下が生じて寝たきりリスクが高まることが知られ、その対策が必須である。そこで本研究では、CKDで生じる尿毒症物質の一種であるインドキシル硫酸の生体障害に着目した。インドキシル硫酸は芳香族炭化水素受容体(AhR)に結合して様々な生体作用を発揮する。一方近年、複数のポリフェノールがAhRと結合し、その作用を抑制することが報告されてきた。そこで本研究ではAhRの作用を抑制し、筋萎縮に防御的に働く食品由来ポリフェノールを同定し、尿毒症性サルコペニア予防のための新たな食事療法の開発をめざす。
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研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)では、病態が進行すると筋萎縮や筋力低下が生じるが、その発症機構は不明の点が多い。本研究では尿毒素の一種であるインドキシル硫酸(IS)に着目し、ISが結合する核内受容体である芳香族炭化水素受容体AhRを中心に検討を行った。 細胞を用いた検討では、人臍帯血管内皮細胞HUVECおよびマウス筋芽細胞株C2C12に対するISの効果を検討した。HUVECに1mMのISを負荷すると、AhRの標的遺伝子であるCYP1A1やAhRRの発現が上昇するとともに、酸化ストレス産生や炎症関連遺伝子の発現が増強した。AhR阻害効果が報告されているポリフェノールchrysin およびapigeninの前処理により、これらの遺伝子発現の上昇は抑制された。一方、C2C12由来筋細胞ではIS負荷によりAhRの標的遺伝子の発現は上昇するが、酸化ストレス産生や炎症関連遺伝子の上昇は認めなかった。またIS によるAhRの標的遺伝子の発現上昇は、chrysinの前処理では抑制されなかった。レポーターアッセイを用いた評価においても、C2C12細胞におけるIS負荷はAhR転写活性を増強させたが、chrysinはこのISによる転写活性の上昇を抑制しなかった。 動物を用いた検討においては、これまでアデニン誘発性腎不全モデルを使用していたが、腎障害の程度が重篤であることや、アデニンの組織に対する直接作用が否定できないことなどから新たなモデル作成を行なった。先行研究を参考にいくつかの病態モデルを作製・検討した結果、片側の腎摘出を行なったマウスに継続的にISを腹腔内投与(100 mg/kgBW)することにより、血中の有意なIS上昇とより生理的な腎不全に類似する組織像を呈する病態モデルを作成することができた。また、本モデルの腎組織でAhRの標的遺伝子であるCYP1A1の発現が上昇していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、細胞や病態モデルマウスを用い、腎臓及び骨格筋でのインドキシル硫酸(IS)によるAhR活性化とそれに伴う病的変化を明らかとするとともに、AhRの活性化制御を介して、これらの病的変化を抑制しうる食品因子の探索を行うことである。 培養細胞を用いた実験系では、ISは血管内皮細胞および筋細胞においてAhRを活性化し、その標的遺伝子の発現を増加させるものの、炎症や酸化ストレス関連遺伝子に対する反応は細胞間で異なることを明らかとした。さらに食品ポリフェノールの1つであるchrysinは、血管内皮細胞ではISの作用を抑制しうるが、筋細胞では明らかな効果を呈さないことを見出した。 動物実験では、これまで用いていたアデニン誘発性腎不全モデルに比べ、人の慢性腎臓病により近い病態モデルを作成でき、さらに本モデルにおいて腎臓の組織学的な変化や遺伝子発現変化を検討することができた。 このように研究は概ね計画通りに進行しており、また予想に反して、AhR アゴニストであるISや、AhRのアンタゴニストとして知られるchrysinが、血管内皮細胞と筋細胞において異なる作用を示すことなどを明らかにできた。これらのことから研究は予定通りに進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績概要に記載した項目毎に、以下のように研究を推進していく。 細胞を用いた検討では、以下の検討を行う。1)HUVECではISによる細胞障害性作用を、ポリフェノールであるchrysin およびapigeninが抑制することを明らかとした。そこでレポーターアッセイを用いたAhR活性評価系を用い、これらポリフェノールの効果が、AhRの活性化阻害を介しているかを検討する。2)C2C12細胞においては、ISの影響をさらに詳細に検討する。具体的には筋分化や筋肥大・萎縮、代謝に関わるマーカー遺伝子やタンパク質の発現を検討する。またchrysinは筋細胞においてAhR活性化を抑制しなかった。そこで筋細胞においてISによるAhR活性化を抑制しうる食品ポリフェノールの探索を行う。1)と同様に、レポーター遺伝子をマウス骨格筋由来細胞株C2C12に導入してISと共に種々のポリフェノールを負荷し、レポーター活性を測定していく。 動物実験においては、本年度新たに作製した腎不全モデルマウスの腎組織・骨格筋組織について詳細な評価を行う。また同時にポリフェノールの効果も評価していく。候補ポリフェノールとしては、前述のchrysin, apigeninを選択する。片腎切除したマウスにIS(100 mg/kgBW)を継続的に腹腔内投与し、さらにポリフェノール投与群と非投与群の2群にわけ、投与群には候補ポリフェノールを継続的に経口投与する。腎臓と骨格筋組織について以下の項目を評価する。組織学的評価(HE染色、アザン染色、蛍光免疫染色)、AhR標的遺伝子、炎症・酸化ストレス関連遺伝子、線維化・筋萎縮関連マーカー遺伝子の発現検討、これらの反応に関わるシグナル分子の活性化評価(NFκB等)、細胞内活性酸素種(ROS )の定量など。
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