研究課題/領域番号 |
21K19784
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
葛岡 英明 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (10241796)
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研究分担者 |
鳴海 拓志 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (70614353)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | バーチャルリアリティ / 環境的文脈 / 文脈依存記憶 / アバタ / マルチ文脈効果 / 視覚的忠実度 / 遠隔講義 / 記憶 / 記憶支援 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は,記憶に強い影響を与える環境的文脈としてのバーチャルリアリティ(VR)の効果を明らかにし,VRの特性を活用した効果的な記憶支援手法を実現することである.本研究では,環境的文脈としての現実とVRを分かつ要因の特定を中心に記憶に影響する環境的文脈としてのVR環境の特性を明らかにする.その上で, VRの特性を活用して,現実での学習以上に効果的な記憶が可能な記憶支援手法の実現を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、(1)環境的文脈としてのバーチャルリアリティ(VR)環境が記憶に与える効果を明らかにした上で、(2)VRの特性を活用した効果的な記憶支援手法を実現することである。 本年度は、(1)についてVR環境内での環境的文脈変化が記憶に与える影響を検証した。病室、森林、海辺の360度動画を使用するとともに、周囲の風景と合わせてアバタを医者、軍人、水着アバタに変化させる手法が記憶への効果を強めるという仮説を検証した。参加者内実験の結果、有意な記憶への効果は確認されなかった。これは、昨年度までの検証と一貫した結果で、VR内での環境的文脈変化では「VRである」というメタ認知の文脈が一致しているために、効果が確認されづらい可能性が支持された。他方、VR環境と実環境間の環境的文脈変化が記憶に与える効果についても検証した。VR環境の視覚的忠実度の効果に注目し、フォトグラメトリ技術を用いた高精細なVR環境を使用すれば、VR環境と実環境の差異が縮小し、環境的文脈変化が記憶に与える効果が減少すると仮説を立てた。混合計画実験の結果、有意な効果は確認されなかった。これは先行研究の成果を支持しない結果で、視覚的忠実度の効果も明らかにすることはできなかったが、学習から想起までの睡眠の有無などが効果に支配的であるという仮説を得た。 (2)については、講師アバタを活用した新しい遠隔講義手法の提案と効果検証を行った。多様な文脈下で学習することで記憶が定着するマルチ文脈効果に注目し、アバタを用いてあたかも複数の講師の講義を受けているかのような体験を学生に与えるVirtual Omnibus Lectureを提案した。実際の講義において検証実験を実施し、提案手法は講義直後の理解度テストのスコアを有意に向上することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
VR環境からVR環境への環境的文脈変化が記憶に与える影響については、2つの検証実験で一貫したネガティブデータが得られたことから、効果が小さいことが示唆された。これらの成果はいずれも査読付き国内論文誌に採録されており、ネガティブデータでありながら豊かな考察を基に、分野に貢献することができている。また、VR環境と実環境間の環境的文脈変化についても、以前の予備的検討から発展して視覚的忠実度の効果を検証した。残念ながら視覚的忠実度の有意な効果を明らかにすることはできなかったが、先行研究との比較を通じて、睡眠による記憶の整理・定着の有無が重要であるという今後調査すべき重要な指針を得た。本成果は、VR分野のトップジャーナルであるIEEE TVCGに採録され、Best Paper Nomineeを受賞するなど、VR分野にとっても重要なテーマである。他方、有効な記憶支援効果を得ることにも成功している。多様な環境的文脈で学習すると記憶が定着するマルチ文脈効果に基づき、多様な講師アバタで講義をするという新しい遠隔講義手法Virtual Omnibus Lectureを提案した。実際の遠隔講義で検証実験を行い、理解度テストのスコアが有意に向上することを確認した。本成果は、査読付き国際学会で口頭発表した。 以上のように、環境的文脈としてのVRの特性解明と、それに基づいた記憶支援手法の実現は達成されており、それらの成果を積極的に論文として発表することもできている。しかし、当初の想定と異なる結果が得られており、さらに詳細な調査が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
環境的文脈としてのVRの特性解明については、VR環境と実環境間の環境的文脈変化をメインに検証を続ける。特に、これまでの検証で学習とテスト間のインターバルが短い場合には有意な効果が確認しづらいことが示唆されたため、当初の研究計画にはなかったものの、1日~1週間のインターバルを設ける検証実験によって、より精緻な知見を得ることを目指す。また、今年度はVR環境の視覚的忠実度の影響に注目したが、今後は自分のバーチャル身体であるアバタの見た目や動作の忠実度などの効果についても検証したいと考えている。アバタはVR体験におけるエピソード記憶の形成と密接に関係していることが示唆されている。 また、多様な環境的文脈のもとで学習することによる記憶支援効果については、これまでの複数の検証で有意な効果を得られており、今後記憶支援手法を実現するにあたって有望な方針であると考えている。例えば、先行研究では2箇所で学習するよりも4箇所で学習するほうが記憶支援効果が高いなど、文脈の数の効果が知られており、VRを用いて記憶支援効果を最大化する条件を解明することなどを考えている。また、これまでは単語リストの記憶課題をメインに検証実験を行ってきたが、例えばハンドサインなど身体を使った記憶課題などを用いて、成果の応用可能な範囲を解明したり、実際の講義での運用によって提案手法の実現可能性を示したりすることも計画している。
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