研究課題/領域番号 |
21K19801
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
杉原 厚吉 明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 研究推進員 (40144117)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 不可能立体 / 両眼立体視 / 変身立体 / 平行移動立体 / 面対称性 / 生き物の形 / トポロジー攪乱立体 / 直角優先性 / 高さ反転錯視 / 起き上がり錯視 / 宙返り錯視 / 超不可能立体 / 立体錯視 / 視覚の数理モデル / 錯視誘発要因 |
研究開始時の研究の概要 |
至近距離から両眼で見ても奥行きを誤って知覚してしまう「超」不可能立体の発見の上に立って、この立体群の多様な実例を発掘するとともに、この錯視を説明する数理モデルを構築する。このモデルでは、三角測量の原理に基づく両眼立体視と、単眼の手掛かりによる奥行き推定を並列に実行し、それらが矛盾したときには、何らかの基準で最適な奥行き解釈を選択する。このモデルを利用して錯視の誘発要因を定量化し、両眼で見ても起こる「超」不可能立体錯視の理論体系を構築する
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研究実績の概要 |
両眼で見ても錯視が消えない「超」不可能立体の仕組みを探るという目的に対して、この錯視が起きる新しい実例の創作・収集を継続するとともに、両眼立体視をしのぐ錯視の強さをもたらす要因について研究した。 実例については、鏡に正面を向けた立体が、鏡に映っても振り向かないで同じ方向を向いたまま平行移動するように知覚される立体錯視を発見し、これを「平行移動錯視」と名付けた。この錯視立体の設計アルゴリズムを構築し、それをソフトウエアとして実装し、錯視立体の実例も作った。たとえば、蝶、蜂、蛾、鳥、魚などの生き物の姿を素材にしてこの方法で立体を作り、錯視が起きることを確認できた。そして、この錯視を起こす立体の一部に、両目で見ても錯視が起きる「超」不可能立体が含まれていることも確認できた。この平行移動錯視立体を素材に用いて「超」不可能立体錯視の要因を考察し、次の二 つの要因が働いていることを見つけた。 平行移動錯視立体は、鏡に平行な面に対して面対称となる。この性質は、視点に依存しない立体固有のものである。そのため、右目で見ても左目で見ても成り立ち、それぞれの目の位置から見た立体とその鏡映像は平行移動の関係にあることが保証される。これが、両目で見ても平行移動しているという印象が生まれる要因の一つであると考えられる。 両眼で見ても錯視が起きる平行移動錯視立体は、幾何学的な図形より、昆虫などの生き物の姿を素材にした場合の方が得られやすいことが観察された。これは、生き物の形が固定されたものではなくて変形するものであるという性質によると考えられる。すなわち、立体を見たとき形を認識しているのではなくて、蝶、魚などのカテゴリーであって、少しぐらい形が変わってもカテゴリーは変わらず、錯視も起き続けると考えられる。 この二つの要因が特定できたことが、本年度の最も大きい成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初計画は、「超」不可能立体という新しい錯視現象を解明するために、(1)錯視を説明する数理モデルの構築、(2)「超」不可能立体の作品例の創作・蓄積、(3)「超」不可能立体の理論的体系化という三つの研究項目を柱として研究を推進することであった。 2022年度は、このうち特に(2)について、「平行移動錯視」という新しい錯視立体設計法を構築して、この方法で創作した立体の中に「超」不可能立体が含まれることを見つけることができた。そしてこれを材料に「超」不可能立体の錯視要因を探求したところ、昨年度に見つかった視点に依存しない立体の性質として、鏡面に平行な面に関する面対称性という新しいも性質を特定できたことに加えて、見ているものが形ではなくて生き物の種類などのカテゴリーであるという説明ができることが分かった。この知見を組み込むことにより、視覚の数理モデルの性能を向上させ、「超」不可能立体の理論体系づくりも一歩進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2023年度は、「超」不可能立体錯視の理論提携の構築に重点を置く。両眼立体視をしのぐ錯視の強さの要因として、これまでに(1)網膜像を解釈するとき脳は直角を多く含む構造を優先的に選択する傾向があること、(2)錯視要因が視点に依存しない立体固有の性質であること、(3)見ているものが生き物などの変形するものである場合に、形を知覚しているのではなくて、形を手掛かりにカテゴリーを知覚・認識していると考えられること、の三つを発見している。これらの要因がどのように複合したとき、両眼立体視や運動立体視をしのぐ力になるのかを観察しながら、「超」不可能立体錯視の数理モデルを構築する。 さらに、そのモデルからの予測に基づいて、新しい錯視立体の開拓・創作も継続する。
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