研究課題/領域番号 |
21K19827
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分62:応用情報学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松田 秀雄 大阪大学, 大学院情報科学研究科, 教授 (50183950)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
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キーワード | RNAシーケンシングデータ解析 / 遺伝子発現プロファイル解析 / 細胞系譜推定 / 融合遺伝子検出 / バイオインフォマティクス / 細胞アトラス / 細胞種推定 / 1細胞RNAシーケンス / 細胞系譜 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞の持つ遺伝子の塩基配列を、1細胞単位で読み取る技術が開発され、生物の持つ臓器・組織内での遺伝子の発現に関する情報が細胞アトラスとしてまとめられつつある。細胞アトラスを利用して、細胞の時間的な状態変化、例えば、幹細胞から成熟細胞への分化のメカニズムを明らかにすることができれば、個体の発生や健常状態から疾病に向かう過程についての知見が得られると考えられる。本研究では、状態変化過程を表す細胞系譜の候補を生成し、それらをスコアで評価することで最適な細胞系譜を推定する方式を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究では、多様な細胞集団に対して1細胞RNAシーケンシングをすることで得られる遺伝子発現データを基に、細胞集団の持つ多様性と連続的な状態遷移過程についての知見を得ることを目的としている。 具体的には、刺激応答等に対する細胞内の遺伝子発現プロファイルの比較や、二光子励起顕微鏡で観察した細胞動態の変化などの情報を利用して、細胞の状態遷移過程を推定する手法の開発を実施している。実際に、がん由来の培養細胞株から取得したRNAシーケンシングデータから複数の遺伝子が融合した融合遺伝子配列の検出手法を開発した。この手法では、融合遺伝子の候補を選ぶのに、参照RNA配列とのアライメントと参照ゲノム配列とのアライメントのいずれにおいても遺伝子の融合が確認されたもののみに絞っており、既存の手法と比べて偽陽性(融合遺伝子ではないRNA配列を誤って融合遺伝子と検出したもの)が少ないことが特徴である。 また、マウス胚性幹細胞(ES細胞)に対して分化誘導をかけたときの1細胞RNAシーケンシングデータに対して細胞系譜を推定し、細胞系譜に沿って細胞を整列させた遺伝子発現プロファイルを、疑似的な時系列発現プロファイルとみなして、深層学習により遺伝子制御ネットワークを推定する手法を開発した。開発した手法では、データベースに登録された既知の遺伝子制御関係を、既存の手法と比べてより正確に検出できることが示された。この手法を使って、複数の細胞種に分化する細胞集団に対して、それぞれの細胞分化の系譜ごとに分化を制御している遺伝子制御ネットワークを推定することで、細胞の状態遷移を制御しているメカニズムについての知見を得ることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発した融合遺伝子検出手法を、シミュレータにより生成された疑似的な融合遺伝子配列データに対して適用した結果、既存の手法よりも正確に融合位置(2種類の遺伝子配列が融合してできる配列において、一方の遺伝子配列から他方の遺伝子配列に切り替わっている位置)を検出できることを示した。また、乳がん由来の3種類の培養細胞株からRNAシーケンシングにより取得した転写遺伝子配列データに対して本手法を適用したところ、リアルタイムPCRなどで検出されている既知の融合遺伝子のうち、既存手法では検出できなかった融合遺伝子を検出することができた。さらに、複数の種類の培養細胞株で共通して検出されたことから新規の融合遺伝子の可能性が高い候補遺伝子を提示することができた。 さらに、研究協力者である、奈良県立医大 堀江教授のグループから、マウス胚性幹細胞(ES細胞)に分化誘導をかけたときの1細胞RNAシーケンスデータから推定した複数の細胞系譜について、細胞系譜ごとに遺伝子制御ネットワークを推定した。その結果、細胞系譜を考慮せずに遺伝子制御ネットワークを推定した結果に比べて、特に神経細胞への細胞分化において、既知の制御関係を既存の手法よりも正確に推定できることを示した。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
細胞系譜および遺伝子制御ネットワークの推定手法の中核部分である深層学習に基づく機械学習手法の改良を引き続き進めていく。現在は1細胞RNAシーケンシングにより得られた遺伝子発現データのみから遺伝子制御ネットワークを推定しているが、研究協力者からは、マウスES細胞のオープンクロマチン領域、すなわちヌクレオソームのない領域の分布を網羅的に解析した1細胞ATACシーケンシングのデータの提供を受けており、このデータと1細胞RNAシーケンシングのデータを組み合わせることで、細胞分化の過程での遺伝子制御の変化を動的に解析する手法の開発を目指す。 深層学習に基づく機械学習手法は大きな進展をしており、近年進展が著しいTransformerに基づくモデルの開発を進める。 以上の推定手法を、細胞集団の状態遷移過程での1細胞RNAシーケンシングおよび1細胞ATACシーケンシングのデータに適用することで、細胞集団ごとの状態の多様性や、状態遷移過程で機能する遺伝子制御のメカニズムについての知見を得ることを目指す。
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