研究課題/領域番号 |
21K19846
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分63:環境解析評価およびその関連分野
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
星 信彦 神戸大学, 農学研究科, 教授 (10209223)
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研究分担者 |
横山 俊史 神戸大学, 農学研究科, 助教 (10380156)
杉尾 翔太 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (30825344)
池中 良徳 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (40543509)
平野 哲史 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (70804590)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 農薬 / 発達神経毒性 / 継世代影響 / クロチアニジン / ネオニコチノイド系農薬 / 海馬歯状回 / 行動解析 / 不安様行動 / ミクログリア / 二光子顕微鏡 / APO(有限発現経路) / ネオニコチノイド / 食殺・育子放棄 / 神経前駆細胞 / グリア |
研究開始時の研究の概要 |
環境化学物質の悪影響が世代を越えて伝わる継世代影響が懸念されている.一方,「胎児期や乳児期における環境因子が生後の各種疾患のリスクを高める」こともわかってきた.中でも,発達神経毒性は極めて重要な問題である.しかし,多くの農薬は神経毒性作用を有し,胎盤関門を容易に通過する事実はあるが,継世代影響の実態やそのメカニズムはほとんどわかっていない.本研究では,中枢神経の活動や代謝系を,生体マウスの覚醒下で脳の様々な細胞を可視化イメージング技術により,これまで困難であった投与期間全体を通じた連続観察や,最も感受性が高い胎子脳に対する薬剤影響を直接的に観察をすることで継世代影響を捉え,その原因を探る.
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研究実績の概要 |
脳の神経回路形成期を4つの発達段階に分け,NNの一種,クロチアニジン(CLO)の無毒性量をC57BL/6Nマウスに曝露させ評価した[実験1].さらに,無毒性量のCLO曝露による神経行動学的な継世代影響を検証した[実験2]. [実験1]行動解析の結果,神経細胞増殖・分化期(胎齢9ー12日)と神経突起伸長期(胎齢15ー18日)でのCLO曝露では,成年期(生後10週齢)の不安様行動へ影響が認められた.シナプス形成・アストロサイト分化期(生後1ー4日)曝露では,成年期において自発運動量が増加したほか,海馬歯状回における新生ニューロンマーカーであるDCX陽性細胞が減少し,幼若神経細胞の減少ならびに海馬の神経突起や軸索の伸長・分岐に関連する遺伝子が幼年(生後3週齢)および成年期で高発現した.一方,シナプスリモデリング期(生後11ー14日)での曝露では生後に大きな影響はみられなかった.以上より,無毒性量の曝露でも胎子・新生子のCLOに対する感受性が発達段階によって異なることを初めて明らかにした(doi: 10.1292/jvms.22-0570).[実験2]母獣マウスに対して,妊娠1日目から離乳(3週齢)までCLOを摂取させた.子(F1),孫(F2),ひ孫(F3)世代の成年期に行動試験を実施し,自発運動量および不安様行動を評価したところ,F0,F1では出生体重が低く,運動量が減少し,不安様行動が増加した.F2では,体重が増量し,運動活性の減少傾向,不安様行動の増加傾向がみられた.F3では,運動量が増加する傾向にあった.このように,母親のみが曝露されたにもかかわらず,CLOの影響はF1,F2,および直接・間接的に曝露の無いF3世代においても認められた.本研究により,これまで不明であった神経回路形成期での時期特異的なCLOの曝露影響と,発達神経毒性の継世代影響が初めて明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,「継世代影響の有無,ならびにそのメカニズムを科学的に明らかにする」事を目的に,農薬の事例として妊娠中の母マウスへネオニコチノイド系農薬の一種であるクロチアニジンを曝露させる系(次世代の胎子・新生子期曝露)で,1)神経回路形成期での時期特異的なCLOの曝露影響評価,ならびに2)母マウス(F0世代)への無毒性量のクロチアニジン曝露による神経行動学的な継世代影響を子(F1),孫(F2),ひ孫(F3)世代の成年期に検証することでその影響を評価できた.とくに,直接・間接的に曝露の無いF3世代においてもネオニコチノイドの影響が認められたのは初めての成果である.その結果,2報の論文が受理・掲載され,現在1報が査読中である. 新生子への母乳移行(Toxicol Lett 373: 33-40; doi: 10.1016/j.toxlet.2022.10.006)ならびに胸腺・腸管免疫への継世代影響(doi: 10.1292/jvms.23-0038)についても論文が受理された.
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今後の研究の推進方策 |
1)母獣曝露と父獣曝露の影響 有機塩素系(例えばDDT)や有機リン系農薬の哺乳類を対象としたエピゲノム影響研究ではシステマティックレビューも報告されているが,ネオニコチノイドについてはまさに研究の端緒が開かれたばかりである. これまで,ネオニコの発達毒性や継世代影響は,妊娠中の母獣への投与実験で評価されてきた.一方,交配相手である父獣へ化学物質等を投与して,次世代以降にどのような影響が出るのかはこれまでほとんど調べられていなかった.漸く最近,雄親マウスへのニコチン曝露が継世代に行動障害,学習障害をもたらすことや,海馬の遺伝子および神経機能の変容と恐怖記憶の増強を誘発することが示され,これらの研究では精子と海馬でのエピゲノム変化も報告されている.父親の非遺伝的な要因が世代を超えて影響を及ぼす詳しいメカニズムについて当研究室でも解析を進めているが,精子DNAやヒストン修飾,ncRNAのエピゲノム変化が有力視されている.さらに最近,実験動物やヒトにおいて,父親の精子のDNAメチル化と子供の発達障害の関連を示唆する報告が相次いでいる. 2)脳腸相関で腸内環境が鬱や発達障害,自閉症,学習障害および免疫機能に影響する 自閉症スペクトラム障害(ASD)には,遺伝的要因だけでなく腸内細菌叢も関与している可能性が示唆されている.すなわち,ASD児では,腸内細菌叢を構成する微生物の種類と量が特異的かつ未発達であることをコホート研究が示している.我々は,ラットへクロチアニジンを亜慢性的に摂取させると,胸腺重量の大幅な減少や短鎖脂肪酸産生菌の減少が引き起こされることを初めて報告した.それらは環境ストレスを負荷することで免疫系に与える影響は複合的に変化する可能性も示唆される.最終年度では,それらについても研究を進める予定である.
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