研究課題/領域番号 |
21K19860
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分64:環境保全対策およびその関連分野
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
西川 潮 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 准教授 (00391136)
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研究分担者 |
勝見 尚也 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (40769767)
伊藤 浩二 岐阜大学, 地域協学センター, 助教 (30530141)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 環境配慮型農業 / 里山資源 / 無農薬稲作 / モウソウチク / ケイ酸 / 無農薬栽培 / 水田 / 生物多様性 |
研究開始時の研究の概要 |
無農薬稲作農業は、米の収量や品質が安定しづらいため、農業の持続性に課題を抱えている。無農薬稲作農業の振興を図る上で、環境負荷低減や、米の品質、生物多様性保全に配慮しつつも米の収量を向上させる栽培法の確立が喫緊の課題である。本研究では、申請者らの準備研究の知見を踏まえ、里山の竹バイオマスを活用した資源循環型稲作農法の開発を行う。本研究は、無農薬稲作農業に革新的な新技術を提供することに加え、農林業が一体となった「資源循環型農林業」の構築に向けた学際研究の新展開に資することが期待される。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、竹粉から生成・溶出する無機物・有機物を探索し、これらの有機物・無機物が水田雑草やイネ、生物多様性に与える影響を調べ、無農薬稲作への応用を図ることである。これにより、里山のバイオマスの利活用を軸とした、資源循環型農林業の創生への新展開が期待される。 室内実験では、芳香族カルボン酸や揮発性脂肪酸等の分析条件を確立するとともに、湛水培養試験を実施した。稈と葉に分けて120日間の湛水培養試験を行ったところ、葉施用区では還元が進行したが、稈施用区では120日後も酸化還元電位が対照区と同等だった。竹粉からのKの溶出は速やかに生じたが、Siはほとんど溶出しなかった。 圃場実験では、竹粉の施用時期の違いが、水稲収量、米の外観品質・食味成分および水田の生物多様性に与える影響を明らかにした。実験の結果、竹粉の施用の有無や施用時期を変えた4処理間でイネの成長パラメーターには有意差が認められなかった。しかし、穂肥の時期に竹粉を施用した処理区では、対照区と比べて玄米収量が少ない傾向が認められ、千粒重も小さかった。玄米収量と、実験後の土壌P、N、K 含量との間には有意な相関は認められなかったが、玄米収量と土壌Si含量との間には有意な負の相関が認められた。さらに、玄米収量と イネのSi吸収量との関係性を調べたところ、両者の間に正の相関が認められた。一般化線型モデルとAICcを用いたモデル選択を用いて、イネのSi吸収量を説明する土壌の理化学的要因を検討したところ、土壌の遊離酸化鉄含量を説明変数とするモデルが最適モデルとなった。以上より、イネのSi吸収量が玄米収量の制限要因となっていること、イネのSi吸収量は土壌の遊離酸化鉄含量の影響を受けている可能性が示された。さらに、水田の生物多様性調査から、竹粉の施用はアシナガグモ類とシャジクモ類の多様性の増加につながる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
室内実験は計画通り実施したが、当初の仮説とは異なる結果が得られた。当初は湛水培養により竹粉からSiが溶出すると想定していたが、今回の培養条件ではほとんど溶出しなかった。一方、Kは培養初期にほとんどが溶出したが、培養温度によってその後の挙動が変化した。15℃や25℃では、K濃度が時間と共に漸減し、その減少量および速度は25℃の方が大きかった、一方、5℃で培養した場合はその濃度が維持された。このことから、15℃や25℃では溶出したKが微生物に取り込まれたことが示唆された。また、稈と葉では分解のされやすさが異なり、葉の方が分解されやすいことが示唆された。ただし、今回の湛水では通常の圃場よりも還元の進行が緩慢だったため、圃場条件を再現しているとは言い難い。特に、実際の圃場実験では竹粉の施用により田面水Si濃度が増大しており、今回の培養実験とは異なる。今後、培養条件を再度検討する必要がある。 圃場実験も計画通りに実施したが、こちらも当初の仮説とは異なる結果が得られた。竹粉穂肥区では、Siが供給されることで水稲収量が増加することを期待したが、予想に反し、玄米収量が低下傾向を示し、米粒の千粒重も小さかった。一方で、竹粉元肥区と対照区の玄米収量に有意差は認められなかった。また、これまでの研究グループの先行研究と異なり、実験後の水田土壌中のP濃度とイネのSi吸収量との間に相関は認められず、土壌中の遊離酸化鉄含量とイネのSi吸収量との間に相関が認められたことから、鉄還元菌等の微生物の働きがイネのSi吸収量や玄米収量の増加に寄与していた可能性が疑われた。また、竹粉の施用により、有機物が分解する過程で芳香族カルボン酸類が発生し、竹粉からのSi補給の効果が芳香族カルボン酸類によるイネの生育阻害効果によって相殺された可能性も考えられた。竹粉の施用影響を明らかにする上で、新たに考えるべき要因が浮上した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、イネのSi 吸収量が玄米収量の制限要因となっていること、イネのSi 吸収量は土壌の遊離酸化鉄含量の制限を受けている可能性が示された。2023年度の実験では、前年度からの竹粉の施用影響の経年変化を見るとともに、イネのSi 吸収量を制限する要因や水田の生物多様性への影響に着目して圃場実験を進める。 金沢大学の16筆の実験田を用いて、春先の米糠施用の有無と、元肥としての竹粉の施用の有無が、水稲収量、米の外観品質・食味成分および水田の生物多様性に与える影響を明らかにする。圃場実験では、春先の米糠施用の有無と田植え時の竹粉施用の有無をクロスさせた2×2要因計画の4処理区を無作為に実験田に割り当てる。各処理区で、水稲の生育、収量および米の外観品質・食味成分を測定する。田面水を定期的に採水し、竹粉施用後の田面水中のN、P、K、Siの含量を調べるとともに、芳香族カルボン酸類の発生量の調査を行う。あわせて、水田の動植物を指標として、各処理区が水田の生物多様性と水田雑草の被覆度に与える影響を調べる。
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