研究課題/領域番号 |
21K19894
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 智久 東京工業大学, 工学院, 准教授 (70334513)
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研究分担者 |
朱 疆 東京工業大学, 工学院, 助教 (70509330)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 非線形振動応答 / 高周波メス / リアルタイム剛性計測 / 超音波加振 / 荷重計測 / 剛性 / 生体組織 / センシング / 振動応答 / 超音波 / 局所剛性計測 / 選択的切除 |
研究開始時の研究の概要 |
本課題では,操作対象を高周波加振した際の対象の応答を操作器具そのもので計測することで,操作部位の局所剛性計測をリアルタイムに行うことが目的である.この目的の達成のため,主に3項目について研究を実施する.すなわち,(1) 刃物を用いた接触加振・計測実験をもとに提案技術の基本原理を実現し,つづいて(2)実際の切開動作を想定して刃物を動かしながら剛性計測を試みる.さらに(3)食肉や家畜の内臓などを対象とした電気メスによる切開実験により,実際の手術に応用する際の実用性チェックを行う.また,人の手による操作感についても医師による実操作に基づく意見を参考にして加振パラメータの検討を行う.
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研究実績の概要 |
令和4年度は,まず前年度に引き続き軟質複合組織の振動応答について,工学のみならず医学・農学といった広い分野まで広げて文献調査を行った.その結果,数kHz程度までの振動に対する応答計測によって果物の熟成度や柔らかさの非破壊評価を行う研究がいくつか見られた.一方,医学分野では,特に高周波振動を用いた組織の物理特性評価はほとんど行われておらず,数Hzのごく低周波で比較的大きな加振振幅による組織変形による病変識別の例がわずかにある程度であった. 上記の調査と並行して前年度より進めていた装置設計を完成させ,基礎的な予備実験により「超音波加振への非線形応答による剛性評価」という本課題の基本コンセプトの確認を行った.前年度で計画した通り,試験片としてシート状で硬さの異なるシリコーンゴムを数種類用いた.加振計測実験のスタートである令和4年度は,加振装置と応答計測装置をそれぞれ別のアセンブリとして(分割型計測システム)装置を構成し,加振方向と計測方向が試験片に対して同方向の場合(同方向計測)と反対方向の場合(反対方向計測)について試験片の振動応答の評価を行った.また,加振周波数は入手が比較的容易で広く用いられる超音波振動子を用いて容易に実現できる40kHz付近とした. まず,加振に対する応答振動の計測可能性を確認したところ,現状の試験装置では加振部と計測部の距離が遠く,同方向計測では十分な感度で計測応答振幅が得られない一方,反対方向計測では評価可能なレベルの測定感度が得られることが確認できた.また,硬さの異なる試験片について,40kHz付近でスイープさせた加振周波数に対応する応答振幅を評価したところ,最大振幅,その最大振幅を与える加振周波数,および加振周波数の変化に対する応答振幅の変化傾向から,試験片の硬さの違いが判別できる可能性がある事がわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
関連文献の調査は,所属組織の図書館に所蔵されている電子ジャーナルやインターネットの活用により効率的に進めることができているが,直接参考にできる報告が見当たらないために,基本コンセプトを確認するための実験方法の検討に多くの時間を要した.なお文献調査は継続中である. 本課題のために新たに設計・製作する実験装置についても,装置を構成する部品や計測装置の選定を慎重に行った結果,装置設計の完了が遅れた.さらにセンサなど海外からの機器の調達に当初の予定より時間を要したことも装置の完成が遅れた理由である.なお,令和4年度の後半には全ての装置部品と使用機器が揃って装置の基本形が完成し,提案原理の確認実験をスタートさせることができた.一方,本課題の対象となる生体組織と同程度の硬さについての研究は未経験であることもあり,当初予定していた装置のセッティングと評価方法では十分な感度での振動応答計測ができず,装置の修正や調整を変えながら様々な方法を試す必要があり,これに時間がかかった.ただし,これらの試みにより,最終的には本課題で想定する範囲の硬さを持つ評価対象については,振動応答により硬さの違いの識別が可能であることが確認できた.従って,今後より広い範囲の硬さの違いを精度よく評価するための方法を検討することで,研究計画がスムーズに進捗すると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
分割型計測システムによる基礎的な検討を速やかに終わらせた後,加振機構と計測部が一体となっている装置(一体型計測システム)を試作し,硬さ計測性能の確認を行う.加振振動子と計測用ロードセルは現装置のものを流用する計画である.平成4年度までの実験で同方向計測における低感度が問題となっているが,一体型では加振部・計測部間の距離がないため,十分な感度で振動応答が得られると考えている.試験片は,初期の段階では入手が容易な工業用シリコンゴムシートを継続して使用する予定であるが,計測可能性の確認後は人工臓器等に用いられる材料を用いる.提案原理の実用化には操作対象の硬さ変化をリアルタイムに認識できる事が重要であるため,場所ごとに硬さが異なる試験片を製作し,それぞれの硬さが正しく識別する事を確認する.この際に用いる試験片は外部の研究組織から工業用ゴム状材料を3Dプリンタで造形したものを調達する計画である.また,実際に切開を行う際に正しく硬さが識別できることを確認するため,医療用メスと一体型計測システムを組み合わせて切開中のリアルタイム硬さ計測実験を行い,必要に応じて加振パラメータの調整や評価方法の修正を行う.なお,再現性のあるデータを得るためには,メスを操作は一定の速度と一定の切り込み量で行う必要がある.これについては,現有の3軸ステージに把持部を追加することで流用が可能であり,実験事態は比較的短時間で開始できる. その後,研究の仕上げとして,本課題で想定している最終的な応用先である高周波メスへの適用可能性を確認するために,実際の高周波メスを導入し,加振装置と計測センサを組み込んだ試験システムを構成して実験を行う.なお,使用する高周波メスの選定は令和4年度から進めており,早い時期で導入が可能であるため,多くの実験を実施することが可能であると考えている.
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