研究課題/領域番号 |
21K19929
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
福田 紀男 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (30301534)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | ナノ計測 / イメージング / 心臓・循環器 / 心臓 / 循環器 / 生体制御 / ナノバイオシステム / 心疾患 / 生理学 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者は基礎生理学研究において、赤外光レーザーによる熱パルスを照射すると、心筋収縮タンパク質がCa非依存性の収縮を示すことを報告している。本研究では、この知見に基づき、致死的不整脈の原因である心筋細胞内Ca過負荷を惹起させずに心機能を高める「次世代心疾患治療デバイス」の基盤技術を開発する。熱パルスを利用した心臓の収縮機能増強法は世界初の試みであり、心疾患治療における新しいアプローチを提起する。
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研究実績の概要 |
本研究の目標は、「局所熱パルス照射」による心筋収縮力増強法の基盤技術を開発することである。すなわち、in vivoマウス心臓に赤外光(IR)レーザーを照射し、心筋細胞内の収縮装置であるサルコメアの収縮・弛緩を直接的に制御する。申請者らは、2021年度、in vivoマウス心筋細胞内の筋原線維のZ線にGFPを発現させ、「サルコメア運動の同調性」が心筋収縮力を制御していることを見出している(J Gen Phyiol 2021)。2022年度、マウスin vivo心筋細胞におけるサルコメアと細胞内Caの同時計測システムを開発した。すなわち、Z線に局在するACTN2に、Caセンサー蛍光タンパク質GCaMPを融合したアデノウイルスベクター「Ad-α-ACTN2-GCaMP」と橙色蛍光タンパク質を融合した「Ad-α-ACTN2-TagRFP」を心筋細胞に発現させる最適条件の検討を行った。マウスin vivo心筋細胞における細胞内Caとサルコメアを同時に計測することによって、「サルコメア運動の同調性」が加温によってどのように変化するのか、その詳細を明らかにすることができるものと期待される。これと並行し、時期特異的α-ACTN2-AcGFノックイン(KI)マウスの作製に着手した。
また、本研究の土台となっている「細胞熱・力学」の観点から、悪性高熱症(MH)について検討した。すなわち、骨格筋の筋小胞体に発現するCaチャネルであるリアノジン受容体に 遺伝的な変異が入ると、加温によってチャネルが開口することで細胞内にCaが放出され、細胞内の局所温度が上昇するという新しい現象を発見した(熱誘発性Ca放出)。また、MHモデルマウスの骨格筋細胞のCa動態とサルコメアの短縮を明らかにし、吸入麻酔薬の投与によってMHモデルマウスの骨格筋の温度が上昇することを単一細胞レベルで可視化することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ⅰ)申請者らは2021年度、in vivoマウス心臓において、同一筋原線維であるにもかかわらずに各々のサルコメアは同調して動いておらず、生理的条件下(左心室内圧:~100 mmHg)、サルコメアの同調率は約30%に過ぎないことを報告した(J Gen Phyiol 2021)。そして、同調率が上昇(低下)すると左心室内圧が上昇(低下)することを明らかにした。これは、「サルコメア運動の同調性」が筋収縮力を制御していることを示しており、心臓研究分野における歴史的な研究成果であるといえる。IRレーザーの照射によってサルコメアの同調率を上げることによって、強力な心臓のポンプ機能が生み出されるものと期待される。なお、申請者らの論文はJ Gen Phyiol誌のCommentaryに取り上げられている(J Gen Phyiol 2022, 154: e202113022)。 Ⅱ)2022年度の研究において、in vivoマウス心筋細胞におけるサルコメア長とCa濃度の同時イメージングの最適条件を見出した。申請者らは、培養心筋細胞の実験において、興奮収縮連関を単一サルコメアレベルレベルで観察する系の構築に成功している(J Gen Physiol 2014, 2016)。2022年度に得られた知見は、生理的条件下で拍動しているin vivoマウスの心筋細胞においてCa濃度とサルコメアの収縮・弛緩をナノレベルで解析することを可能にする。これと並行し、時期特異的α-ACTN2-AcGFP発現KIマウスの作製に着手し、遺伝子を導入する座の選定や遺伝子導入用コンストラクト作製を行なった。2023年度内にはKIマウスを利用できる予定である。 Ⅲ)本研究の土台を成す「細胞熱・力学」を骨格筋研究に応用することによってMHのメカニズム解明に突破口を開いた。
以上より、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の研究を遂行する予定である。 Ⅰ)申請者らは最近、細いフィラメントのみならず、太いフィラメントも心筋収縮のON-OFF制御に寄与していることを見出している(Front Physiol 2022)。したがって、本研究の土台となっている「熱刺激収縮」の分子メカニズムを、細いフィラメント側からのみならず、太いフィラメント側からも明らかにする。具体的にはin vitro motility assayを用い、人工的に再構成した細いフィラメント(F-アクチン+トロポミオシン+トロポニン)をミオシンに作用させ、IRレーザーの照射によって誘起される細いフィラメントの滑り運動速度を定量化する。 Ⅱ)マウスin vivo心臓のどの部位にどの程度の範囲と強度でIRレーザーを照射すれば効率良く心筋サルコメアの収縮性を向上させ、心臓内圧を上昇させることができるかを検討する。心筋細胞内Ca濃度の過度な上昇は不整脈を誘発させる。そこで、2022年度に開発した手法を用い、サルコメア長と同時に細胞内Ca濃度についても計測する。α-ACTN2-AcGFP KIマウスの作製に成功した場合、そのKIマウスを使用する。KIマウスを使用することで上記の実験がより効率的に行えるものと期待される。 Ⅲ)Ⅱ)の手法を肥大型心筋症や拡張型心筋症、あるいは虚血性心疾患といったモデルマウスに適用し、IRレーザーの照射によって心筋細胞内局所のサルコメア動態とCa濃度との関係にどのような変化が生じるか、そして、心臓のポンプ機能がどのように変化するかを探る。臨床応用に向け、レーザー照射の最適条件を見出すことを目的とする。
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