研究課題/領域番号 |
21K19980
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
加藤 夢三 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (90906207)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 日本科学 / 横光利一 / 科学技術新体制 / 旅愁 / 戦時思想 / 戦時下 / 言論活動 / 人文系知識人 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、戦時下の文学者たちの創作営為において、「日本科学」という同時代に流行した表象概念が重要な関連を持っていたことを明らかにする。従来、戦時下の日本における思想動向は、西欧の科学主義/日本の精神主義、あるいは非合理的な判断を下す政治体制/合理的思考を有する良識派知識人という図式で語られがちであった。しかし、実際には戦時下の統治権力は、確かに西欧的な思考の方法との差異を主張しながらも、なお西欧とは異なる仕方で合理主義・科学主義の立場を取っており、そのキータームとなるのが「日本科学」という表象概念であった。その思想的な射程と文学者の言論活動の影響関係を整理することが本研究のねらいである。
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研究実績の概要 |
今年度は、研究発表を2回行なった。 2022年6月には、日本近代文学会春季大会(於:早稲田大学)で、個人発表「帝国の論理/論理の帝国――横光利一『旅愁』と「日本科学」」を行なった。論旨は、横光利一の長編小説『旅愁』について、同時代に興隆していた「日本科学」論とのかかわりを検討したものである。 2022年8月には、横光利一文学会研究集会(於:オンライン)で、特集企画「徹底討論『微笑』」に登壇し、個人発表「テクノクラートたちの戦後――『微笑』の倫理」を行なった。論旨は、横光利一の遺作『微笑』について、作中の発明家である栖方の造形に、戦中/戦後において討議されたテクノクラートのあり方が投影されていることを指摘したものである。 ともに論文化し、年度内に学会誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2回の研究発表のほか、論文執筆を進めており、順調に進展していると自認している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に行なった個人発表を学会誌に投稿し、審査結果によっては改稿を試みる。 新たに着手する研究内容としては、1948年に民主主義科学者協会藝術部会から刊行された『大衆藝術論』という論集を分析したいと考えている。この論集には、キクチ・ショーイチ「文学に於ける通俗性」という評論が所収されているが、その論旨は1920年代後半に流行していたプロレタリア文学運動、とりわけ中野重治や蔵原惟人の芸術大衆化論の焼き直しにすぎないものとみなされている。確かに、キクチの主張自体に独創性は認められないのだが、一方で当時の日本がGHQの管理下のもと、戦時下の思想潮流に対する反省を迫られていたという時勢を考慮したとき、キクチの言う「通俗性」は民主主義運動と近接するものであったことが浮かび上がってくる。その意味で、キクチの評論には戦後の科学者共同体における新たな思想的課題が照射されており、それは戦時下の「日本科学」論に携わった知識人の反省と総括に対する言及を差し挿んでもいた。キクチの評論を検討することで、研究課題として設定していた戦時下の「日本科学」論をめぐる展開のあり方を、戦後論壇の動向と紐づけながら立体的に考察していきたい。
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