研究課題/領域番号 |
21K19985
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
劉 夢如 神戸大学, 人文学研究科, 人文学研究科研究員 (70907675)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 日本近現代演劇 / 寺山修司 / 戯曲 / 台本 / 言葉 / 小劇場運動演劇 / アングラ文化 / 土方巽 / 日本現代演劇 / 言語 / 文学 / 言語表現 |
研究開始時の研究の概要 |
表現者である寺山修司は、その演劇実践において文学から離脱することを宣言し、文学的言語と異なる「始源の言葉」を追求しようとした。しかし、詩という文学の場から出発した寺山の試みには、文学の跡が刻まれている。本研究は、寺山の模索に注目し、その戯曲の「台本」を中心におき、シナリオ・長編詩・古典の現代語訳などのテクストをも対象として分析を展開する。それを通して、「言葉」の概念の変容過程を観察し、1960年代から70年代にかけての表現文化に関する新たな視野を開くことが期待される。
|
研究実績の概要 |
寺山修司は演劇実験室・天井桟敷の演劇活動において、「文学」から離れることを唱え、演劇の「文学」性を批判してきた。中期作品にあたる「密室劇三部作」は「言葉」についての問題を提起し、例えばその中の「盲人書簡(上海篇)」(初演1974年)が劇場の「闇」を通して、観客に非言語的な「本物」の体験を与えようとするような模索をしている。 寺山が台本というテクストを劇場での上演と別の「読物」として捉えている。本研究はこれまで、それらの言語表現としての「読物」に焦点を当て、先行作品の引用を確認しながら、その意味内容を解読することを試みてきた。寺山における「文学」という概念は、必ずしも自明なものではなく、「言葉」「理性」「想像力」「記憶」「権力」「歴史」などの語に変貌しながら、その台本や古典現代語訳などのテクストの中に表現される。 1960年代初頭のアングラ文化を視野に入れつつ寺山作品の位置付けを側面から突き止めると、アングラ演劇の「隠れた教祖」(奥野健男)と呼ばれ、寺山と同じ東北出身の土方巽は避けられない。寺山をはじめとする小劇場運動演劇の第一世代の劇作家たちと土方巽との交友関係は、土方巽アーカイブ(慶應義塾大学アート・センター)で確認される。また、「アンダーグラウンド劇のはしり」(佐々木治己)といわれる「真田風雲録」(初演1962年)を作劇した福田善之は、劇団青年芸術劇場の座付き劇作家であるが、同劇団には、のちアングラ演劇の担い手である唐十郎と佐藤信が一時期研究生として所属していた。同時代の文化史・演劇史は、寺山作品の言語表現の特徴を考察するには重要である。 本研究は今後、引き続きテクストに基づいて実証し、寺山作品を歴史的に位置付けることを目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の進捗を踏まえ、本年度は計画通りに進んでいる内容は下記の通りである。 2022年10月23日に、2022年度日本近代文学会秋季大会(於同志社大学)において研究発表「寺山修司作台本「盲人書簡(上海篇)」における「暗闇」と言葉」(口頭発表)をした。発表内容及び学会の参加者からいただいた意見を踏まえ、台本における先行作品の引用を精査し、「闇」という語の内実を考察した。論文「寺山修司作台本「盲人書簡(上海篇)」論――言葉としての「闇」――」を『関西近代文学』(第2号)へ投稿済である。 2022年11月に、土方巽アーカイブ(慶應義塾大学アート・センター)で資料調査をし、寺山修司をはじめとするアングラ世代の劇作家と土方巽の交友関係を確認した。調査結果を論文「寺山修司長編詩「地獄篇」(1963-1965)と土方巽「病める舞姫」(1977-1978)について」へ反映する予定である。 計画よりやや遅れている内容は下記の通りである。天井桟敷「密室劇三部作」の二作目「疫病流行記」(1976)の台本についての論文の執筆がやや遅れている。さらに資料精査をし、完成度を上げる必要がある。三沢市寺山修司記念館(青森県)への出張計画は未実施である。
|
今後の研究の推進方策 |
執筆中の論文「寺山修司長編詩「地獄篇」と土方巽「病める舞姫」について」の原稿を見直す。二つの対象作品異なる時期に発表したテクストであるため、寺山と土方と共有する問題意識を論じた上で論を展開する必要がある。 執筆中の論文「寺山修司台本「疫病流行記」論」の原稿を見直す。「言葉」についての問題意識が「密室劇三部作」を貫いている。一作目の「盲人書簡」、三作目の「阿呆船」の台本では「言葉」の問題が如何に表現されているかを考察してきたが、二作目「疫病流行記」の台本における「言葉」の問題意識についても確認が必要であり、新しい発見が望まれる。 当初予期していない発見により追加した研究計画を確実に展開する。寺山の台本に見られる特徴、例えば当時の歴史的社会的な状況を反映している点、劇中劇の構造になっている点、歌謡を多数挿入する点など、福田善之の戯曲の代表作「真田風雲録」(1962)、「オッペケぺ」(1963)にも見られる。福田作品は「アンダーグラウンド演劇のはしり」(佐々木治己)と評価されているが、それらの作品を考察することを通して、寺山作品をはじめとするアングラ文化のテクストを歴史的に位置付けることが期待される。
|