研究課題/領域番号 |
21K20074
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0104:地理学、文化人類学、民俗学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 (2022-2023) 立命館大学 (2021) |
研究代表者 |
芦 宛雪 京都大学, 経済学研究科, 特定助教 (70906908)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ASEAN金融一体化 / 商業銀行 / 経営改革 / ASEAN地域一体化 / 家族経営 / ASEAN金融統合 |
研究開始時の研究の概要 |
2000年代後半以降、ASEAN金融市場統合を見越し、東・東南アジア域内クロスボーダー参入が増えつつ、規制当局は競争環境強化と金融技術進歩を目指して外資参入規制緩和を進め、外資プレゼンスの拡大が域内銀行部門の変容を特徴づけている。本研究はタイ商業銀行の事例研究を通じ、外国資本・銀行のプレゼンス拡大が域内商業銀行に及ぼしてきた影響を検証した上、銀行ガバナンス構造の変容に焦点を当て、影響のメカニズムを解明することを目指す。本研究は地域研究の経営史アプローチによって域内大手銀行の事業展開パターンを捉え、地域統合の道筋を考察しながら、金融統合に向けた金融規制改革に係る政策の見直しに貢献する。
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研究実績の概要 |
2000年代半ばから、ASEAN経済共同体の目指し、東・東南アジアでのクロスボーダー参入と外資参入規制の緩和が進み、これにより外資の影響力が拡大し、銀行部門に顕著な変化が生じている。本研究では、タイのKasikorn銀行をケーススタディとして、ASEAN地域金融一体化が大手銀行のビジネスモデルと経営業績に与える影響を分析する。Kasikorn銀行はアジア通貨危機後、外資の急増により創業者一族が少数株主となったものの、経営幹部の人事異動調査から、銀行の経営構造への影響は限定的であることが判明した。創業者家族は依然として経営管理において優勢を保ち、ファミリービジネスが所有権から経営管理主導へ移行する傾向が見られる。さらに、銀行の近代化経営改革で、ランサム家5世代目のバントゥーンが推進するデジタルバンキングおよびFinTechが焦点となっている。ASEAN地域経済統合による事業機会の増加と経済成長の可能性を背景に、Kasikorn銀行は国内市場だけでなく、ASEAN諸国および日・中・韓での事業拡大に注力している。2007~2012年の間、銀行の年平均支店成長率は6.74%で、国内大手行の平均よりわずかに低かったものの、2013~2016年の間で9.24%に上昇し、大手行の平均を大きく上回った。特に、この段階で海外ネットワークを前段階に比べ120%拡大し、成長が著しいCLMV諸国と中国に新たなネットワークを集中的に設立した。これらの戦略により、Kasikorn銀行は非利子収入率を大幅に向上させ、経営費用率が上昇する中で全体的な収益率も2010年代から他の国内大手行より上回っている。創業者一族による安定的かつ強力なリーダーシップが、銀行内部における経営戦略やマーケティングなどの意思決定の一貫性をもたらし、タイ及び周辺ASEAN諸国の銀行市場において同行の競争優位性を確立させている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、銀行の費用と収益構造について実証的な分析を進めた上で、タイ国内及び周辺諸国でフィールド調査を実施した。特に、ASEAN域内での海外進出戦略に焦点を当て、インタビューやデータ収集を行った。CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)においては、より広範な顧客基盤を構築するための海外ネットワーク展開やビジネスモデルの変化に特に注目して分析を進めた。この部分の研究成果を学会で発表し、論文を加筆修正の後、単著として出版社に投稿し、査読を通過した後、次年度の出版が決定した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度、Kasikorn銀行創業者一族による近代化経営改革の一環として、組織内のデジタルトランスフォーメーションに注目し、その分析を進める予定である。特に、本銀行が長期にわたりデジタルバンキング業務に注力してきたことから、フィンテックイノベーションの研究開発(R&D)、デジタルプラットフォームへの投資、デジタルバンキング市場競争環境の変化、市場シェアの変動に焦点を当てる。このデジタル化が銀行のビジネスモデルおよび費用収益構造にどのような影響を与えているかを明らかにすることを目指す。そのために、Kasikorn銀行、Kasikorn研究センター、タイ中央銀行、タイ証券取引所などでの聞き取り調査を行う計画を立てている。
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