研究課題/領域番号 |
21K20208
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0109:教育学およびその関連分野
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野村 和之 千葉大学, 大学院国際学術研究院, 助教 (90910216)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 日本語学習者 / 香港 / エスノグラフィー / 言語社会化 / ヴァーチャルな日本 / 政治情勢 |
研究開始時の研究の概要 |
香港は日本とつながりの深い社会だが、香港人日本語学習者が日本語やそれを取り巻く文化に馴染んでいく言語社会化の過程については未解明な点も多い。本研究はエスノグラフィーを手法とし、「激動する政治情勢の中で生きる香港人日本語学習者は、日本語とそれが話される文化への言語社会化をどのように行うのか」を問う。調査では、言語形式の運用よりむしろ、これまで十分に詳らかにされてこなかった価値観・行動規範などの社会・文化的な側面と、学習者が心の拠り所として想像・接近しようとする一種のヴァーチャルな日本に焦点を当てる。
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研究実績の概要 |
食やポピュラー文化を中心に「日本」が広く姿を現す香港では日本語学習が情意的誘因に強く動機づけられる。広東語に加え英語・標準中国語の習得が宿命付けられる多言語社会にあって、日本語は選択外国語として広く学ばれ、最新の市勢調査では人口の2%が日本語を話すと回答する。しかし、日本語学習者が指導者や他の日本語話者との関わりの中で、日本語やそれを取り巻く文化に馴染んでいく言語社会化の過程については未解明な点も多い。特に、過去3年間で激変した政治情勢を踏まえた論考は、管見の限り、多くは存在しない。本研究はエスノグラフィーを手法とし、「激動する政治情勢の中で生きる香港人日本語学習者は、日本語とそれが話される文化への言語社会化をどのように行うのか」を問う。調査では、言語形式の運用よりむしろ、これまで十分に詳らかにされてこなかった習慣や態度などの文化的ふるまいと、学習者が心の拠り所として想像・接近しようとする一種の<ヴァーチャルな日本>に光を当てることを目的としている。 2022年度は、これまで香港で収集していた既存データと、オンライン調査などで得られた新規データを織り合わせ、香港の日本語教育における潜在的カリキュラムを論じた研究論文を発表した。その中で、香港人日本語学習者・非母語話者教師が協働して、国民国家<日本>とは異質な、香港人のアイデンティティを反映した<ヴァーチャルな日本>を想像していることを明らかにした。それに加え、香港人日本語学習者の言語社会化に大きな影響を与えると考えられる日本の学校文化について学校教員を対象とした質的なインタビュー調査を行い、研究論文として発表した。香港では、共感への言語社会化が日本語学習を動機付けるが、日本の学校教育では、批判的思考(多面的・多角的思考)のような、共感とは一見関係の薄い学習項目を教える際にも、共感が大きな影響を与えているとの結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年初頭まで香港政府が渡航に際し厳しい検疫措置を課していた関係で、香港での現地調査が実現しなかったが、日本に在住する香港人日本語学習者へのインタビュー調査や、香港のインフォーマントとのオンライン調査を可能な範囲で行い、研究の継続に努め、潜在的カリキュラムという切り口から得られたデータを分析し、研究論文として発表した。同時に、香港の日本語学習者が、とりわけ日本語を母語とする教師から教わる<日本的な>習慣や態度が、日本の学校教育と深い関連があると想定し、日本国内でも学校現場の参与観察を行い、いわゆる学校文化の理解に努めた。それを踏まえ、現職および最近退職した学校教員へのインタビュー調査を行い、香港人日本語学習者の動機づけを捉える上で鍵となる共感が、日本の学校教育で中心的な位置を占めていることを確認し、研究論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、香港におけるコロナ禍での検疫措置が実質的に撤廃され、渡航が容易になったため、香港に渡航し現地調査を行いたい。2020年夏から、香港では国家安全法が施行され、自由な政治的発言が困難になっているが、状況が許す範囲で、現地の日本語教育の現状把握と、香港人日本語学習者へのインタビュー調査などを行いたい。ただし、1か月を超える長期間の渡航は学務との両立を考えると非現実的であるため、申請時点で想定していたような大量のデータを収集することは困難が予想される。現実的に収集・分析が可能な範囲でのデータを、丹念に分析することで、当初の研究目的であった、香港人日本語学習者が心の拠り所として、どのような<ヴァーチャルな日本>を想像し、どのようにそこに接近しているのかを明らかにし、本研究の完結を目指したい。
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