研究課題/領域番号 |
21K20257
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0109:教育学およびその関連分野
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
HOU YUEJIANG 秋田大学, 教育文化学部, 講師 (70913531)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 環境移行 / 社会的排斥 / 環境の不確実性 |
研究開始時の研究の概要 |
上位学校への進学に伴う環境移行の時期(以下,学校移行期)は,学校適応上の問題が多い時期である。学校適応を扱う先行研究では友人関係など個人を取り巻く社会的要因(以下, 社会的要因)を背景因子として同定しているが,なぜ学校移行期というタイミングで社会的 要因の状態が学校適応に顕在化しやすいのかについて,十分に理解されているとはいえない。 そこで本研究では,主に実験室で社会的排斥の処理過程を検討した方法論を用いて,上記の未解決の課題を明らかにすることを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、他人からの社会的関係のシグナル(受け入れられる、排除される等)への感受性が、社会環境の変化にどのように影響を受けるかを検討した。具体的には、高校から大学への移行期を焦点に据え、移行期と非移行期、そして排斥の手がかりの有無が排斥感やストレスの認識にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。この研究により、社会的排斥に敏感な時期や状況についての理解を深め、新たな教育環境への適応を支援する戦略の提案につながると期待される。当初の研究計画では脳波実験を予定していたが、脳波計測と実験の準備が遅延しているため、計画を変更し、行動実験と縦断調査に切り替えた。以下は、今年度の活動内容である。 1. 大学新入生を対象に縦断調査を実施し、社会的関係のシグナル(場面想定法による排斥刺激、微排斥刺激、受容刺激)、環境移行(移行期と非移行期)と環境の不確実性認知の程度(開発した尺度)が心理的欲求の充足度に及ぼす影響を検討した。現在はデータ分析を行っているところである。 2. 環境移行による排斥感受性の個人差要因として、愛着スタイルの関連概念である境界例心性に焦点を当て、調査研究を行なった。その結果、排斥感受性は環境の不確実性によって影響され、境界例心性はその効果を調整することが示された。これは環境移行後の環境不確実性の認知が排斥感受性に及ぼす影響の個人差に対する新たな説明を提供する知見である。 3. 信頼ゲームのパラダイムを用いた実験室実験でリアルの対人行動を計測し、今後の脳波研究の準備としてデータ収集を行った。その分析結果の一部を国内学会にて発表した。 以上の活動を通じて、高校から大学への移行期における社会的排斥感の理解を深めるとともに、これらの情報が学生の適応支援にどのように活用できるかを考察するための基礎データを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳波指標を使用する実験のデータ収集は遅れている。その理由は先行研究で実施されている実験課題の実装に時間を要していることと,予備実験にて適切な測定ができていないことが確認され計画の変更を余儀なくされたためである。ただし、本プロジェクトの目的に合わせて計画を修正し、新規に対人行動実験が遂行できたことは重要な進展であると評価できる。令和6年度には収集したデータに対する分析結果の一部を学会で発表し、今後も詳細な分析を行う予定である。 また、大学新入生を対象とした縦断調査も実施し、移行後の排斥感受性のメカニズムとして環境不確実性の認知を測定する尺度を開発し、詳細なデータ分析を進めている。さらに、もう一つの新規調査研究では、環境の不確実性が排斥感受性に与える影響とその調整要因である境界例心性を明らかにすることができた。これらの成果は、環境移行期における社会的排斥の感受性の理解を深める上で重要な進展だと考えられる。 これらの活動を通じて、本プロジェクトの研究目的に対して概ね順調に進展していると判断される。計画変更に伴う調整は必要であったが、得られた新たな知見はプロジェクトの目的達成に寄与している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの分析では、大学移行後時間が経過するにつれて、環境の不確実性認知が低下することが確認された。また、高い環境の不確実性認知は対人場面における回避行動を増加させる効果を持つことが調査によって示されている。 一方で、実験室実験で得られた対人行動と気分のデータは上記の知見と完全に一致しておらず、実験パラダイムの改善や調査知見の再現可能性について検討する必要がある。 今後の研究は、以下の方策を推進する。 1. 縦断調査の継続のサンプルサイズの確保:大学新入生を対象にした縦断調査を継続し、交互作用を検討するために必要なサンプルサイズに至るよう努める。排斥感受性が時期要因(移行期と非移行期)によって影響されるか、その影響は環境の不確実性認知によって媒介されるかを詳細に分析する。 2. 実験パラダイムの改善とサンプル収集の継続:実験室実験のサンプル収集を引き続き進め、実験パラダイムの改善を図る。これにより、調査結果との比較・統合を目指す。 3. 調査研究の知見の論文化と公表:これまでに得られた調査研究の知見を論文化し、学術誌への投稿および公表を進める。これにより、研究成果を広く共有し、フィードバックを得て、さらなる今後の研究発展につながると期待する。
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