研究課題/領域番号 |
21K20302
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0110:心理学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022) 大阪市立大学 (2021) |
研究代表者 |
川坂 健人 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 特任講師 (60908416)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 社会認知能力 / カワスズメ科魚類 / ホンソメワケベラ / グッピー / 個体性 / 自己顔の心象 / 異人種効果 / 個体識別 / 顔認知 / 中枢神経基盤 / 社会的認知能力 / 比較認知科学 / 脳生理学 / 行動生態学 / 魚類 |
研究開始時の研究の概要 |
従来はヒトや類人猿のみが持つと信じられてきた社会的認知能力が魚類を含む他の脊椎動物でも報告されるようになり、ヒトの認知能力の起源に関する議論はますます盛んになっている。魚類は脊椎動物では最古の系統群であるが、感覚器官や脳の基本的な構造は他の脊椎動物と共通である。そこで本研究では、脊椎動物における社会的認知能力の起源は魚類にあると仮定し、1)水槽実験による認知能力のテスト、2)野外での行動観察や種間比較、3)認知能力に関係する脳領域の探索、という3つのアプローチから魚類の社会的認知能力を検証し、脊椎動物における社会的認知能力の進化要因を解明することを目指す。
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研究実績の概要 |
前年度に引き続き、タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類を中心に、魚類において個体間関係を成立・維持させている認知能力の探求を実施した。具体的な方策としては「水槽実験による実験心理学的アプローチ」、「フィールドでの潜水観察による行動生態学的アプローチ」の2つを採用した。水槽実験では、同種個体との間に順位やなわばり関係をもつ協同繁殖魚Neolamprologus pulcherや掃除行動を通じて非常に多くの同種他個体と関係をもつホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus)、それらと異なり野外では順位やなわばりをもたないグッピー(Poecilia reticulata)に対して「顔の倒立効果」や「真の個体識別」「顔による自己の認識(自己顔の心象)」「他者の姿の心象」等の社会認知能力について検証した。また、N. pulcherについては顔の模様の地域変異に着目し、別地域の個体を個々に識別できるかについても検証した。また、タンガニイカ湖に面するザンビア共和国のムプルングに渡航し、野外におけるN.pulcherの社会行動と成長に伴う個体固有の顔模様の発達をスキューバ潜水にて観察し、群れ社会における「個体性」の重要性を検証した。 前年度および本年度の研究成果の一部は査読付きジャーナル(Zoological Science)に投稿し受理されたほか、スウェーデン・ストックホルムで開催されたISBE2022(国際行動生態学会議)や2022年度 日本魚類学会年会、日本生態学会 第70回大会などの国内・国際学会を通じて発表した。魚類においてヒトなどにみられる顔認知などの社会的認知能力を検証した例は少なく、共同研究者が日本生態学会にてポスター発表賞を受賞するなど一定の注目を集めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
水槽実験に関しては概ね順調に進んでおり、グッピーを対象とする「顔による個体識別」および「顔の倒立効果」の検証はほぼ完了した。前者は投稿・受理されており、現在後者の成果をまとめて論文を執筆している。ホンソメワケベラの「自己顔の心象」に関する実験は前年度に大半が完了しており、こちらも投稿・受理されている。N.pulcherの「異人種効果」および「他者の姿の概念」については実験方法の見直しが必要となり当初の計画より進捗に遅れがみられたが、現在は順調に進展している。 一方、フィールド観察については計画から遅れがみられた。新型コロナウィルスの流行によりザンビアへの渡航が2年ぶりとなったため、調査拠点や器材のメンテナンスに時間を要したことや、新たな調査地点の選定を要したことなどから、渡航期間内で必要なデータを取りきることができなかった。 また、前年度報告書のとおり本年は「顔神経」などの社会認知能力に関係する脳領域を探索する予定であり実際に北里大学および広島大学などの共同研究者を訪問して研究計画について相談し必要な技術を習得したが、2023年度より採択された学術変革領域Bとの重複を考慮して実験内容を見直す必要が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は2023年度が最終年度であるので、これまで得られた成果を整理し、論文としての投稿および年度中の受理を目指したい。前項のとおり水槽実験は概ね順調に進行しているので年度内の早い段階で論文を投稿する。現在のところ実験方法等に見直しの必要はないと考えており、問題なく進展するものと予想している。 進捗に遅れのみられたフィールドワークについても本年度内の完了を目指す。ザンビアへは冬季(11~12月)に渡航して前年同様の観察を実施する。飼育実験にて補完可能なデータについては渡航前に取得し、可能な限り年度末までに投稿できるようにしたい。 社会認知能力に関係する脳神経領域の探索についてはテーマの大幅な見直しが必要であること、また実施可能な期間が短いことから、2023年度は予備的な実験を行い、その成果を今後の研究課題に還元したい。
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