研究課題
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天体衝突による放出物質(イジェクタ)の飛散堆積過程を理解することは、地球を含む固体天体の表層進化を考えるうえで必要不可欠である。イジェクタの飛散堆積過程を明らかにするため室内衝突実験や数値シミュレーションによる研究が盛んに行われているが、物質科学的証拠に基づく制約が乏しいという問題がある。本研究では、地球上での大規模天体衝突としては最も年代が新しいオーストラリア-アジアテクタイトイベントのイジェクタ層に着目し、その飛散堆積過程を解明する。具体的には東南アジアの多地点で採取されたイジェクタ層試料について、構成粒子組成・熱履歴・経験衝撃圧力の層序方向の変化と空間分布を明らかにする。
本研究では、ベトナム南部及びラオス南部において、オーストラリア-アジアテクタイトイベント起源のイジェクタ層の野外調査を実施したほか、東南アジア各地で採取したイジェクタ堆積物試料の光学顕微鏡及び電子顕微鏡観察を行い、イジェクタ層の層厚と礫種組成に顕著な異方性がみられることを明らかにした。また、天然試料との組織比較のため花崗岩及び砂岩を用いた衝突実験を実施し、石英中の衝撃変成組織の一種であるFeather Featuresが従来知られていたより広い衝撃圧力範囲(2-18GPa)で形成されること、形成衝撃圧力の大きさに伴い顕微鏡下での特徴が変化し、衝撃圧力指標として有用であることを明らかにした。
およそ79万年前のオーストラリア-アジアテクタイトイベントは、地球上での大規模天体衝突イベントとしては最も年代が新しく、イジェクタの飛散堆積過程に関する初生的な情報が多く残されていると期待できる。本研究で明らかになったイジェクタ層の岩相層序と地理分布は、地球上での天体衝突による物質の飛散堆積過程を明らかにするうえで重要なデータセットである。また、衝撃圧力指標として従来用いられてきた変成組織の多くは10 GPa以上の高圧下で形成されるものであった。本研究で石英中のFeather Featuresが2-18GPaの広い圧力範囲で衝撃圧力指標として有用であると示されたことは学術的な意義が大きい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
Meteoritics & Planetary Science
巻: 57 号: 10 ページ: 1879-1901
10.1111/maps.13908