研究課題
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天体衝突による放出物質(イジェクタ)の飛散堆積過程を理解することは、地球を含む固体天体の表層進化を考えるうえで必要不可欠である。イジェクタの飛散堆積過程を明らかにするため室内衝突実験や数値シミュレーションによる研究が盛んに行われているが、物質科学的証拠に基づく制約が乏しいという問題がある。本研究では、地球上での大規模天体衝突としては最も年代が新しいオーストラリア-アジアテクタイトイベントのイジェクタ層に着目し、その飛散堆積過程を解明する。具体的には東南アジアの多地点で採取されたイジェクタ層試料について、構成粒子組成・熱履歴・経験衝撃圧力の層序方向の変化と空間分布を明らかにする。
本研究の目的は、およそ80万年前の東南アジアで起きた大規模天体衝突イベント(オーストラリア・アジアテクタイトイベント)のイジェクタ堆積物について、経験衝撃圧力・熱履歴・構成粒子組成の層序方向の変化と空間分布・異方性を調べ、イジェクタの飛散・堆積過程を解明することである。オーストラリア・アジアテクタイトイベントは地球上での大規模天体衝突イベントとしては最も新しく、衝突に関する情報が多く残されていることが期待できる。2022年度は、これまでに東南アジアで採取したイジェクタ堆積物試料の研磨片・薄片の光学顕微鏡及び電子顕微鏡観察を実施し、複数地点において衝撃変成組織を持つ石英粒子(衝撃変成石英)を発見した。また、ベトナム南部及びラオス南西部で新たに野外調査を実施し、イジェクタ堆積物試料の採取と野外観察を行い、イジェクタ層中の礫種組成に異方性が大きいことが明らかとなった。野外調査結果と、イジェクタ堆積物試料の研磨片・薄片の観察結果をLunar and Planetary Science Conference 2023 (2023年3月)において報告した。さらに、天然試料中の衝撃変成石英の産状と比較するため、花崗岩及び砂岩を用いた衝撃変成実験を実施し、回収試料中の衝撃変成石英の光学顕微鏡観察・電子顕微鏡観察を行った。実験試料中の衝撃変成石英の観察結果をLunar and Planetary Science Conference 2023 (2023年3月)及び第18回衝突研究会研究集会(2022年11月)において報告した。
4: 遅れている
2022年度は、タイ東北部及びラオス南西部で採取したイジェクタ試料について研磨片・薄片観察を行ったほか、ラオス南西部及びベトナム南部での追加の野外調査・試料採取と衝突実験試料の観察を行った。石英の電子スピン共鳴(ESR)信号強度測定と放射光XRD分析も進める予定だったが、新型コロナウイルス感染症流行の沈静化と社会活動の正常化に伴い、本課題以外の業務で海外出張期間が長期に及んだため、本課題の実験・分析を十分進めることができなかった。したがって、当初の研究計画からは遅れていると判断する。
2023年度は、これまでに東南アジアで採取したイジェクタ層試料について、研磨片・薄片観察、石英のESR信号強度測定による熱履歴推定、放射光XRD分析による経験衝撃圧力推定を行い、構成粒子組成・熱履歴・経験衝撃圧力の層序方向の変化と空間分布・異方性を求める。これまでに代表者の所属機関実験室で試料の前処理と分析を行えるよう、薬品類や、遠心分離機・ウォーターバス等の設備を整えたほか、ESR分析装置に温度可変装置を取り付けた。分析結果と、野外調査で記載したイジェクタ層の岩相層序・ユニットごとの層厚の側方変化から、堆積過程の考察を行う。
すべて 2023 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
Meteoritics & Planetary Science
巻: 57 号: 10 ページ: 1879-1901
10.1111/maps.13908