研究課題
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天体衝突による放出物質(イジェクタ)の飛散堆積過程を理解することは、地球を含む固体天体の表層進化を考えるうえで必要不可欠である。イジェクタの飛散堆積過程を明らかにするため室内衝突実験や数値シミュレーションによる研究が盛んに行われているが、物質科学的証拠に基づく制約が乏しいという問題がある。本研究では、地球上での大規模天体衝突としては最も年代が新しいオーストラリア-アジアテクタイトイベントのイジェクタ層に着目し、その飛散堆積過程を解明する。具体的には東南アジアの多地点で採取されたイジェクタ層試料について、構成粒子組成・熱履歴・経験衝撃圧力の層序方向の変化と空間分布を明らかにする。
本研究は、およそ80万年前に東南アジアで起きた大規模天体衝突(オーストラリア・アジアテクタイトイベント: AATE)のイジェクタ堆積物について、野外調査及び試料分析から飛散堆積過程を探ることを目的としている。AATEは地球上での大規模天体衝突としては最も新しく、衝突に関する情報が多く残されていると期待できる。2023年度は、天然試料中の衝撃変成石英の産状と比較するために昨年度実施した衝突実験試料中から、Feather Features (FFs)と呼ばれる衝撃変成組織を発見した。FFsはこれまで実験での形成例が少なく、その実態が不明確であった。実験試料中のFFsの詳細な特徴を光学顕微鏡及び電子顕微鏡を用いて観察した結果、FFsは2‐18 GPaの幅広い圧力下で形成されること、衝撃圧力の大きさに伴って顕微鏡下での特徴が変化し、3つのタイプ(Type 1~3)に分類できること、衝撃波の進行方向に沿って形成されることなどが明らかとなった。このことは、幅広い圧力範囲において、FFsが衝撃圧力の推定や衝撃波進行方向の復元に利用できることを示しており、天然のイジェクタ試料の堆積過程を復元するにあたってFFsが有用であることが分かった。この結果は論文としてまとめ、Journal of Geophysical Research: Planets誌に投稿中である。今後AATEイベントのイジェクタ層について経験衝撃圧力推定に応用する予定である。また、これまでに調査した36地点のイジェクタ層厚分布を精査した結果、イジェクタ層厚は大まかには推定衝突地点から離れるほど薄くなる傾向があるものの、数百m程度しか離れていない地点間でも層厚が大きく異なる場合があることや、特定の方位に沿って層厚が厚い傾向があることが分かり、イジェクタがパッチ状あるいはレイ状に堆積している可能性が示唆された。
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Meteoritics & Planetary Science
巻: 57 号: 10 ページ: 1879-1901
10.1111/maps.13908