研究課題/領域番号 |
21K20906
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0902:内科学一般およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
木村 吉秀 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (30906508)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | HBV / DRACH / epsilon構造 / B型肝炎 |
研究開始時の研究の概要 |
HBVのepsilon構造の保存は、ウイルス複製においてその構造の重要性を示している。すなわち、その構造における遺伝子変化は、ウイルス複製の減弱や、病原性の低下に関連するのではないかと考える。過去の研究のほとんどは、HBVのウイルス学的複製の亢進、病原性の悪化に着目しており、ウイルス学的活性の低下や病原性の低下に関する研究はほとんど行われていない。今回、epsilon構造の遺伝子変化と予後良好な病態との関連を検討し、予後良好な患者群を示唆するバイオマーカー開発を目標とする。それは、長期的にみて、治療を必要としない患者群の鑑別につながり、医療経済学的観点からも重要と考える。
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研究実績の概要 |
今年度の研究の概要 出生時の垂直感染や幼少期の水平感染および過去の不衛生なワクチン接種によりB型肝炎ウイルス(HBV)は持続感染となり、自覚症状のない慢性肝炎から、肝硬変、肝細胞癌という重篤な病態へと進行する。最近ではC型慢性肝疾患については最短で2か月間の抗ウイルス剤内服治療で治癒が得られるようになったが、B型肝炎では、抗ウイルス剤によるウイルス活動性を抑制する治療はあるものの、数十年に渡る内服治療継続が必要であり、患者にとって医療費や医療機関通院のため費やす時間は多大である。我々研究者は、HBVに関する基礎研究を通じてウイルスの治癒につながるような研究成果を得ることが期待されている。HBVは1965年にブルンバーグ博士、オルター博士によりオーストリア抗原として発見され、ヒトに感染するHBVがそのプロトタイプとして研究されたが、その後に、様々な生物に近縁ウイルスが存在することが明らかとなり、加えて、envelop蛋白を持たない、HBVの祖先に相当するnachednavirusの発見に至った。この一連の近縁ウイルスの発見の中で、これらウイルスに共通するpregenomic RNAのepsilon構造の存在が明らかとなった。その内部構造としてDRACH motifが存在し、各近縁ウイルスにおいて、DRACHが保存されているかを検討した。さらに現在、新たに世界中のdomestic cat HBV, 馬類のHBV、新規の蝙蝠類のHBV遺伝子配列の報告がなされ、遺伝子構造の解析、DRACHを含めたepsilon構造についても解析を行っている。新たにEpsilon構造と相補的な配列構造を持つphi領域の解析を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既報にてEpsilon構造のlower stem内にDRACH motifが存在することが報告されている(Kim et al. PNAS 2022)。過去にインフルエンザウイルスにおいてヒトや鳥類に感染するウイルスでH5 mRNAにおけるDRACH Motifの高度保存が認められ、H5N2やH5N8でも保存がみられ、いわゆる新型インフルエンザに関する治療ターゲット、感染力、宿主内での複製能力や病態に関連する遺伝子変化として注目されている。そこで、HBVのN6メチルアデノシン修飾モチーフ配列の保存性は、インフルエンザと同様に、治療ターゲットや病態を考える上で非常に重要となる。HBVにみられるDRACH motifの保存性について学会で研究成果を発表した。DRACH motifはHBV遺伝子の中で最も保存性の高いDR1やDR2と同レベルの保存性がみられ、遺伝子配列の中で変異の起こりにくい位置であることが明らかとなった。この成果からHBVにおいてDRACHに変化を来すウイルスはその複製能力の低下を来す可能性が推測される。また、現在、Anti-sense oligo-nucleotideやsiRNAがHBVに対する核酸医薬として開発されているが、DRACH領域の保存性とウイルス複製における重要性から、同部位をターゲットにした核酸医薬は治療薬として有効となる可能性がある。保存性の高い領域としてEpsilon構造と相補的な配列を持つphi構造にも注目しており、解析を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
HBVの重要な構造として存在するepsilon構造は各種のHBV近縁ウイルスやHBVの前段階ウイルスとして推測されるnachednavirusにおいても維持されており、これらの比較から臨床的に重要なデータを導き出すことは、HBVに関する病態理解の上で非常に重要である。各種nachednavirusにおけるepsilon構造の解析は他研究者によっても行われており、今後の新しい知見が期待されている。現在、domestic cat HBVに関する世界中から陽性報告や、新たに本邦におけるキクガシラコウモリに感染するHBV遺伝子配列、Equine HBV、南米にみられるWBHBVの報告など、各生物種におけるHBV近縁ウイルスの研究は非常に速いスピードで進んでいる。このような生物学的な広がりをみせるHBVと近縁ウイルスにおいて、さらにepsilon構造に関する検討を進めることができる。同構造内の保存性の高い領域、変化する領域を明確化することで、近年になり急速に開発が進んでいる核酸医薬のターゲットとして期待ができ、保存性の高い領域であれば、治療効果に関する近縁ウイルスを用いた動物実験も行うことができるため創薬開発を促進することにもつながると考える。また過去の報告でEpsilonと相補的なphi構造が、ヒトHBVそしてげっ歯類のHBVであるWHVにおいて宿主特異的に保存されているとする報告があり、今後は、DRACHに加えて、phi構造が各宿主に感染するHBV近縁ウイルスにおいて、Epsilon構造と相補的に保存されているかを検討する。
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