研究課題
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高齢白血病患者の予後は不良で、副作用の低減と治療効果の向上を両立する治療戦略が模索されている。近年、BCL2阻害剤ベネトクラクスとDNAメチル化阻害剤デシタビンの併用療法が有望な治療効果が示され、第Ⅱ臨床研究まで進行している。しかし、併用療法によっても25%程度の症例で治療抵抗性が生じる。そのため、治療反応性を予測し、適した患者に適した治療を選別することが課題であるが、治療効果を裏付ける分子的基盤は不明な点が多い。本研究では、同臨床研究で採取された治療前後の患者検体を用いて、奏効群と非奏効群での遺伝子発現パターンやエピジェネティクス変化を解析し、治療効果予測マーカーの探索を行う。
BCL2阻害剤ベネトクラクス(VEN)とDNAメチル基転移酵素阻害剤デシタビン(DEC)との併用療法はunfit患者に有望な治療効果を示したが、一部の患者では効果が限定的となり同治療に対する治療抵抗性が観察された。そこで、本研究ではVEN/DEC併用療法において治療抵抗性が生じる分子機構を解明し、治療効果識別マーカーを同定することを目的とする。これまでの研究成果により、治療が奏効しない患者群と効果があった患者群の遺伝子発現とDNAメチル化のパターンを比較した結果、非奏効群ではエネルギー代謝に関連する遺伝子の活性化と免疫応答遺伝子の抑制が有意に観察された。特に、非奏効患者のAML細胞では、VEN/DEC治療後にペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPARG)がアップレギュレーションされていることが確認された。本年度は、単一細胞ATAC-seqを使用して、VEN/DEC治療抵抗性と関連するアクセシブルなクロマチンの変化をプロファイリングし、白血病関連クラスターにおいてPPARGモチーフが顕著に豊富であることを明らかにした。これの結果を基に、レンチウイルスベクターを使ってPPARGを高発現させる細胞株を作製し、その細胞のVEN/DECに対する感受性を検証したところ、PPARG高発現細胞は薬剤に対する感受性が低下していることが確認された。また、bisulfite pyrosequencingによるDNAメチル化解析から、DECによってPPARGが脱メチル化され、それが発現の亢進につながることも示された。最後に、細胞外フラックスアナライザーを使用した解析により、VEN/DEC投与時にPPARG高発現細胞では脂肪酸β酸化が亢進することが明らかになった。これらの研究成果は、VEN/DEC併用療法における治療抵抗性の分子機構を解明に寄与するものである。
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Translational Oncology
巻: 18 ページ: 101354-101354
10.1016/j.tranon.2022.101354