研究課題
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侵襲に対する生体反応として、術後に血中の未熟型好中球が増加する。低比重好中球(LDN)は遠心分離で単核球分画に分離される細胞群で、特殊な免疫制御能を有する。消化器癌患者の術後末梢血中ではLDNが増加し、多量のNETを産生するとともにT細胞の増殖を抑制する。そこで、本研究では、術後患者の末梢血サンプルを用いて、LDNの頻度に加えNET含有量、エクソソーム中のmicroRNAに焦点をあてて解析し、外科的ストレスがLDNを増加させる機序と遠隔転移の成立に及ぼす影響を解明する。また、これらの測定値と術後経過と照合し、担癌患者の術後再発を予測するマーカーとなるかを明らかにする。
根治切除を施行した176例の大腸癌患者の術後の血中低比重好中球(LDN)の割合は術前と比べて顕著に上昇しており、術後出血、手術時間と正の相関を示した。このLDNは未成熟型の抗原を高発現し、多量の細胞外トラップ(NETs)を産生し、多数のがん細胞を接着させた。術後LDN高値群の患者は低値群と比べて再発が多く、無再発生存期間(RFS)が有意に悪かった。以上のことから、手術侵襲は循環血液中に未熟型LDNを誘導し、再発の進行を助長している可能性があることが示唆された。 術後LDNの比率は再発の高リスク群を選択するためのバイオマーカーとして有用性があると考えられた。
腫瘍免疫における好中球の果たす役割については未知な部分が多い。本研究にて、術後早期の手術ストレスによって多数に未熟型 LDNが循環血液中に補充され、標的臓器の血管床でNETsを産生し、循環癌細胞を着床させることを介して再発の進行を助長している可能性があることを新たに指摘することができた。手術後のLDNの比率は治癒手術を受けた大腸癌患者において再発の高リスク群を選択するためのバイオマーカーとして有用性があること、とくに術後補助療法の適応を判断する上で重要な情報になることが証明できたという点で臨床的意義は大きい。
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