研究課題/領域番号 |
21K21302
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
1002:人間情報学、応用情報学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤木 結香 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (70912517)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 複雑ネットワーク / フラクタル / 臨界現象 |
研究開始時の研究の概要 |
現実世界の複雑ネットワークにはしばしば強い次数ゆらぎ(スケールフリー性)と繰り込み変換下における不変性(フラクタル性)が現れる。しかし、両性質を有するスケールフリー・フラクタル・ネットワーク(SFN)の構造と臨界的性質の一般的関係は未だ明らかになっていない。本研究では、多様な構造的特徴を再現することができるSFNの一般的数理モデルを構築する。本モデルによって生成されるSFN上のパーコレーションと同期現象を、その臨界点および臨界指数を求めることで特徴づける。これにより、SFNの臨界的性質と構造的特徴の間の一般的関係を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究課題では前年度において、決定論的スケールフリー・フラクタル・ネットワーク(SFN)の既存モデルを一般化することによって、現実世界のSFNが示す多様な構造的特徴を再現することができる数理モデルを構築し、ネットワークの構造的特徴とモデルの形成条件との対応関係を明らかにした。これにより決定論的SFNモデルでは、長距離にわたり離れ合うノード間の負の次数相関(負の長距離次数相関)が現れること、また同じ次数分布と同じ隣接次数相関を有するSFNであっても、クラスター性によってパーコレーション臨界点と臨界指数に違いが生じることが明らかになった。本年度では、決定論的SFNにおいて典型的な性質である負の長距離次数相関が一般のSFNにおいて果たす役割について調べた。この目的のため、まず数値計算を用いて長距離次数相関を有するネットワークを生成し、パーコレーション転移における臨界的性質を調べた。その結果、これまで知られていた隣接次数相関だけでなく、次隣接ノード間の長距離次数相関もまた臨界的性質に強く影響を与えることが明らかになった。また決定論的SFNと同じ次数分布を有するネットワークの臨界的性質が長距離次数相関のはたらく距離に応じてもとのSFNに近づくという結果は、SFNの性質が長距離次数相関に支配されていることを示唆する。また、パーコレーション臨界点では、ネットワークの最大連結成分にフラクタル構造が見られることが広く知られている一方で、高いクラスター性を有するネットワークの次数相関は負になりにくいことが知られている。そこで、スケールフリー性のような強い次数揺らぎを有し、かつ高いクラスター性も有するようなネットワークとしてランダム二部グラフのプロジェクションに着目し、パーコレーション臨界点における最大連結成分の構造的性質を解析的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では令和4年度において、多様なSFN集合に対して、臨界点、静的臨界指数および動的臨界指数を数値計算より求める計画であったが、この取り組みについては十分達成できたと考えている。数値計算を用いて長距離次数相関を有するネットワークの性質を調べたことにより、パーコレーション転移における臨界的性質と隣接次数相関との関係だけでなく、より一般化された次数相関である長距離次数相関との関係を明らかにすることができた。また本年度では決定論的SFNと同じ次数分布を有するネットワークの臨界的性質へ長距離次数相関が与える影響についても調べている。その結果、次数相関のはたらく距離に応じてパーコレーション転移点は変化し、隣接よりも次隣接の長距離次数相関を付与することでもとのSFNにより近づくという結果が得られている。この結果は、SFNの性質が長距離次数相関に支配されていることを示唆しており、さらなる研究への発展が期待できる。また、スケールフリー性のような強い次数揺らぎを有し、かつ高いクラスター性も有するようなネットワークの最大連結成分の構造的性質を解析的に明らかにしたことで、前年度に明らかになった決定論的SFNの性質が一般のSFNにおいてどの程度共通する性質であるのかを調べることができた。当初の計画では、前年度に構築した一般的数理モデルを用いて、隣接次数相関の正負とその強さ、およびクラスター性の強さの異なる決定論的SFN集合を生成する予定であったが、決定論的モデルだけでなくより一般のSFNに対して結果が得られたことについては当初の計画以上に進展したと考えている。ただし、当初の計画にあったSFN上のパーコレーションと同期現象の間の関連性、またSFN上の同期現象における臨界的性質の数学的背景を考察については未達成であるため、全体としてはおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度では、一般的SFNモデル上の同期現象における臨界点および臨界指数を数値計算によって求める。この目的のため、一般的数理モデルを用いて、隣接次数相関の正負とその強さ、およびクラスター性の強さの異なる決定論的SFN集合を生成する。多様な構造的特徴を有する決定論的SFN集合に対して、臨界点、静的臨界指数および動的臨界指数を数値計算より求める。このとき、平衡状態における秩序変数を求める必要があるが、一般的にフラクタル系に おける平衡状態への緩和時間は極めて長い。そこで、系が平衡状態に至るまでの緩和過程から臨界点・臨界指数を求める手法である非平衡緩和法を用いて、計算時間の大幅な短縮をはかる。得られた臨界点・臨界指数を整理し、隣接次数相関の正負とその強さ、また、クラスター性の強さと、同期現象の間の一般的関係を明らかにする。さらに、構造的特徴への依存性および臨界的性質について、パーコレーション臨界点および 臨界指数に対して得られた解析計算結果と比較し、SFN上のパーコレーションと同期現象の間の関連性について考察する。関連性がみられた場合は、解析計算の結果をもとにSFN上の同期現象における臨界的性質の数学的背景を考察する。
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