研究課題/領域番号 |
21KK0046
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柳澤 達也 北海道大学, 理学研究院, 教授 (10456353)
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研究分担者 |
網塚 浩 北海道大学, 理学研究院, 教授 (40212576)
齋藤 開 東京大学, 物性研究所, 助教 (90825291)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
19,110千円 (直接経費: 14,700千円、間接経費: 4,410千円)
2024年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2021年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
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キーワード | ウラン化合物 / 超音波物性 / 多極子 / 強磁場 / 極低温 / アシンメトリ量子 / 超音波測定 / アクチノイド化合物 / ウラン / 超伝導 / 拡張多極子 / 超音波 |
研究開始時の研究の概要 |
放射性元素のウランを含む化合物は新奇量子物性を示すものが多数見つかっており、将来の新たな機能性材料としての応用が期待される。しかしながら、ウラン化合物は国際規制物資であることから研究用試料であってもその輸出入には極めて厳しい規制が課されており、国際共同研究を推進する上での大きな障壁となっている。本研究では若手研究者が欧米で枢要な位置を占めている研究施設に滞在し、直接現地でウラン化合物を作成し、最先端の物性研究を行うことで法規制の障壁を突破する。各々の国の強みを生かしたボーダレスな日米欧の研究チームが一丸となり、マクロとミクロの双方からの研究アプローチにより、ウラン化合物の未解決問題に取り組む。
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研究実績の概要 |
大学院生の日比野は、令和4年8月から令和5年1月までドレスデンに滞在し、Y1-xPrxIr2Zn20 (x = 0.08, 0.37, 1.0)の横波(C11-C12)/2, C44モードを測定した。いずれのPr濃度も (C11-C12)/2にのみ約 20 K以下で結晶場効果によって説明できるソフト化を示すことが判った。Y希釈系(x = 0.08, 0.37)では、1 K以下で冪乗則に従う弾性定数の温度依存性を発見。これは、Pr濃度の変化に伴って四極子近藤効果の「単サイト」模型から「格子」模型へのクロスオーバが生じていることを示唆する。 研究代表者の柳澤は、米国から移送した重い電子系超伝導化合物(U,Th)Be13とUTe2単結晶試料の超音波測定をドレスデン強磁場研究所の日比野と協力して行った。UTe2はパルス強磁場と3He冷凍機を組み合わせ、0.5 K, 69 Tまでの磁場・温度領域で弾性定数C55の測定に成功。磁場回転により40 T強の強磁場下におけるリエントラント超伝導相の弾性応答を初めて捉えることに成功した。 分担者の網塚は、局所的反転対称性の破れた強相関金属化合物UPt2Si2について反強磁性秩序と電荷密度波の共存状態を共鳴X線回折実験及び中性子散乱実験を用いて調べ、電荷密度波が反強磁性磁気構造に及ぼす影響を半定量的に明らかにするとともに、常磁性相においてウランの5f電子軌道に電荷密度波波数の変調が誘起されていることを見いだした。 分担者の齋藤はチェコ共和国カレル大学に滞在し、磁気トロイダル秩序物質UNi4BのUサイトのTh置換を試み、少なくともTh30%まで置換可能であることを確認した。磁気測定から、磁気トロイダル秩序はTh10%程度の置換によって2段の転移に変化していると見られること、置換量を増やすと秩序が抑制されていくことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨(令和3)年度に米国から移送したウラン化合物のドイツにおける超音波測定に全て成功した。特に、UTe2のリエントラント超伝導相に関しては学会でも注目を集めており、その発見者であるワシントン大学セントルイス校のS. Ran教授から提供を受けた単結晶試料を米国からドイツに移送し、ドレスデン強磁場研究所で精密な強磁場下超音波測定に成功したことは意義深い。一方、日本国内では東北大金属材料研究所・附属量子エネルギー材料科学国際研究センター(大洗)の研究協力者から提供された純良単結晶試料を用いて、主に低磁場領域の超音波測定の詳細なデータを蓄積しており、日本物理学会やトピカルミーティングで本系が示す格子不安定性とその解釈について速報できたことは当初の想定を超える成果といえる。 若手研究者としてドレスデン強磁場研究所に派遣した日比野は、同研究所のS. Zherlitsyn氏と協力して希釈冷凍機を立ち上げ、20 mKまでの極低温領域での弾性定数測定を達成できるようにした。低温技術と超音波測定技術を修得し、自身の博士論文研究のテーマである四極子近藤効果を実証するための典型物質 PrIr2Zn20とそのY希釈系の超音波実験を遂行した。海外の若手サマースクールや国際会議にも精力的に参加し、将来の国際共同研究の人脈形成を行っている。 分担者の齋藤は昨年実施できなかったUNi4Bとその関連物質の試料合成をチェコ共和国カレル大学のグループと共同で行った。基礎物性測定のデータは順調に蓄積されており、元素置換効果による新しい知見も得られている。分担者の網塚は引き続き量子ビーム実験によってミクロな観点から反転対称無き強相関電子系の奇パリティ磁気秩序の新奇物性を追求し重要な実験結果が得られている。 よって当初の予定通り、概ね順調に国際共同研究を継続しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度も引き続きドイツ・ドレスデン強磁場研究所とチェコ共和国・カレル大学を訪問し、既に移送済みのウラン化合物について超音波実験と量子ビーム実験の国際共同研究を行う。 東北大金属材料研究所・附属強磁場超伝導材料研究センター(仙台)の25T超伝導磁石は、昨年度トラブルにより稼働を休止しているため、復帰次第、マシンタイムを申請して二軸回転プローブを用いた極低温・強磁場におけるUTe2、 UNi4Bの超音波測定を行う。また、分担者の網塚が北海道大学で育成したUPt2Si2は、極低温強磁場に未解明の磁場誘起相が存在することが先行研究で示されている。既に低磁場領域における予備実験を遂行しているため、今後はその温度・磁場領域を更に拡げ、磁場誘起相における多極子自由度の寄与を調べる。 今年度も引き続きコロナ禍の影響が残ったため、海外の共同研究者との打ち合わせは主にZoomなどによるオンラインで行った。コロナ渦が落ち着きを見せている今後は、若手研究者がface to faceで海外研究者と交流する機会をさらに増やし、持続可能なグローバルなネットワークハブ人材として育成するべく、分担者を含めた大学院生などの若手を国際会議やトピカルミーティングに派遣し、対面での草の根の国際ネットワーク形成を目指す。
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