研究課題/領域番号 |
21KK0093
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
河合 明雄 神奈川大学, 理学部, 教授 (50262259)
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研究分担者 |
高橋 広奈 岡山理科大学, 理学部, 講師 (00803529)
柏原 航 青山学院大学, 理工学部, 助教 (30836557)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
18,980千円 (直接経費: 14,600千円、間接経費: 4,380千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | スピン分極 / ラジカル三重項対機構 / レーザー励起 / パルスESR / ニトロキシドラジカル / キサンテン色素 / 三重項消光 / NMR感度増強 / 光励起 / NMR / ESR / 溶媒和 |
研究開始時の研究の概要 |
NMR分光法は、化学や物理、医学でのMRIなど広範に重要であるが、測定感度が低いことが欠点である。本研究では、日英共同でNMRの感度問題を克服するための学理探究と技術開発を行なう。色素とラジカルの化学システムに光照射する簡便な操作で、NMR高感度化の実現を目指す。そのため、日本側の電子スピン分極現象の知識と、英国側の光照射NMR計測技術を融合する。本研究で光照射によるNMR高感度化を実現し、日英共同研究チームが日欧それぞれにある世界的な分析機器メーカーに働きかけることで、本研究で解明する原理を利用した汎用分析法の製品化への道筋をつけることも同時に目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、広い学問分野で利用されているNMR分光法について、その感度増強の実現を目的としている。この技術開発により、微量の化学物質NMR計測や、局所的なNMR観測に資する基礎的な知識を得ることを目指す。そのために、申請者が発見したラジカルと三重項分子の衝突過程でラジカルに大きな電子スピン分極が生じる現象を利用する。電子スピン分極は、周囲にある物質の核スピンに影響し、オーバーハウザー効果によって核スピンを分極させる。この現象については、本国際共同研究の重要な研究相手である英国Huddersfield大学のWedge博士が専門としており、彼らの研究チームの装置および知見を有効に生かす。 本研究2年目は、コロナ禍の影響が和らぎ、対面による国際交流が再開し始める環境になり始めたため、英国チームの来日、および日本チームの渡英が実現した。英国チームの研究情報によれば、ラジカルを利用したNMR信号増強過程にアミノ酸などの添加物が影響し、特にグリシンの影響が大きい。しかしその原因は解明されていない。この効果がラジカルの電子スピン分極発生時に働いているのかを調べるため、英国チームが来日して共同実験を行った。ニトロキシドとキサンテン色素の系のレーザー励起で発生する電子スピン分極強度をパルスESR法で正確に測定し、その大きさをラジカル三重項対機構のモデルで解析した。 英国チームの来日後、その成果にもとづいて、アミノ酸以外にイオン強度が影響する可能性が指摘された。そのため、NaClなどの塩を添加した場合の電子スピン分極発生やラジカルスピン緩和時間の変化を計測した。特にNaClの添加でラジカルのスピン緩和時間が長くなる興味深い結果が得られた。この知見に基づいて、日本チームが英国を訪問し、NaCl添加によるNMR信号増強の度合いについての実験を日英共同で行った。3年目も引き続きデータを収集する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、日本チームがパルスESRやレーザー分光法でニトロキシドラジカルの電子スピン分極発生機構を解明し、英国チームではその電子スピン分極を利用してNMR信号の増強の実現とその過程の機構解明を行う。この相補的な協力による国際共同研究を通し、光によるNMR信号増強を実現することを目指している。この目的に当たっては、日英相互に相手を訪問し、互いの実験技術やノウハウについての深い理解に基づいた共同研究を進める必要がある。初年度および2年度の前半は、コロナパンデミックによる人的交流の抑制が日本側で大きな問題であったため、相互訪問が実現しなかった。Zoomを利用したWeb会議による情報交換を行ったが、実際に相手国を訪問して実験の実体験を通した理解を進める場合とは比較にならない低レベルな共同研究であった。 本共同研究のロードマップでは、①光励起で大きな電子スピン分極を生じるモデル系の選定、②モデル的な系でのNMR信号増強に資する試料セルのデザイン、③モデル系でのNMR増強の測定と実験条件の最適化、④モデル系での溶媒和圏溶媒分子NMRの選択的観測と溶媒和圏構造の理解、を重要項目に位置付けた。初年度、2年度を終えた時点では、①について添加剤の効果を精査している段階である。②試料セルの設計については、英国の自作NMR観測装置の詳細を、2022年度末期に英国訪問して初めて理解した段階であり、最終年度に取り組むこととなる。④の溶媒和圏分子の選択的観測については、英国訪問時にNMRで観測する化学シフトの正確さについて問題がある可能性が指摘された。溶媒和圏分子のわずかなシフト値の違いを観測し分ける工夫が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本国際共同研究については、基幹となる日英共同研究の発展と、そこを苗床とした多国間の国際共同研究関係の構築の2つの方向性が重要である。最終年に向けてはこの視点での発展を目指す必要がある。 日英共同研究については、イオン強度が水溶液中のニトロキシドラジカルの緩和時間に影響を与える可能性が見出された点が大きな成果である。最終年はこのメカニズムの解明を行いながら、NMR信号増強が最大となるキサンテン色素や添加イオン種の選定およびイオン濃度の探査を行うことが重要と考える。これにより、現在の最良なモデル系であるローズベンガル/ニトロキシド水溶液にグリシンを加えた場合で達成した5倍程度のNMR強度増強を、数倍程度改善することを目指す。 国際交流の拡大については、2023年の英国訪問やその際の国際学会参加で、対面交流を進めることができ、Huddersfield大学以外にもManchester大学の核スピン分極研究者、Cambridge大学のニトロキシドラジカル以外のラジカルでの光誘起電子スピン分極発生現象の解明を進める研究者、イタリアのトリノ大学で半導体ナノシートにおける光誘起電子スピン分極発生を行う研究者と交流することができた。最終年はこれら研究チームとの交流をすべく、2023年7月にはイタリアの研究チームを訪問し、核スピン分極の可能性まで含めた共同研究の検討を行う予定である。また2024年春には、これら欧州の研究者を中心にした光誘起電子スピン分極発生や核スピン分極発生の専門家を集めた国際交流集会を日本で開催し、現在の研究の総括および、今後の国際共同研究体制の在り方について議論したいと考えている。
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