研究課題/領域番号 |
21KK0102
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分38:農芸化学およびその関連分野
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
石原 亨 鳥取大学, 農学部, 教授 (80281103)
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研究分担者 |
高橋 賢次 鳥取大学, 農学部, 准教授 (00400143)
美藤 友博 鳥取大学, 農学部, 准教授 (20776421)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
18,980千円 (直接経費: 14,600千円、間接経費: 4,380千円)
2024年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2021年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | スーダン / 薬用植物 / 燻蒸 / Combretum hartmannianum / Terminalia laxiflora / テトラクロロジメトキシベンゼン / Rumex vesicarius / 加水分解型タンニン / タマリンド / フラボノイド / 縮合型タンニン / バオバブ / 民族薬理学 / リバース薬理学 / 生理活性物質 |
研究開始時の研究の概要 |
スーダンは、イスラム文化圏とサブサハラ文化圏の境界に位置し、多くの民族が生活している。生薬の利用が盛んで、多くの植物が薬として活用されている。しかし、このような薬用植物は、天然物化学や薬理学の研究対象とされておらず、活性化合物や作用メカニズムは不明のままである。また、それぞれのコミュニティーがもつ薬用植物の知識は、コミュニティー内での活用にとどまり、それ以外の地域に情報が広がることはない。本課題では、スーダンで活用されている薬用植物について現地調査を実施した上で、活性物質や作用メカニズムを解明し、得られた成果をスーダンの伝統的な知識と統合して広く公開することを目指す。
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研究実績の概要 |
スーダンで身体の燻蒸に使用されるCombretum hartmannianumとTerminalia laxifloraについて、加熱によって放出される揮発性成分の詳細な解析を行った。その結果、リモネンなどの多数のテルペノイドとオクチルアセテートなどの芳香を有する成分の同定に成功した。特筆すべきなのは、いずれの植物材料からも1,2,4,5-テトラクロロ-3,6-ジメトキシベンゼン(TCMB)が検出されたことである。TCMBは抗細菌活性を有する化合物で、菌類によって生産されることが知られている。香木の生産過程では、C. hartmannianumとT. laxifloraを、一定期間、雨にさらしてから乾燥させ、燻蒸に使用される。TCMBは植物がもともと持っていたとは考えにくく、木材が雨にさらされることで菌類が繁殖し、この化合物が蓄積するに至ったと推定された。すなわち、スーダンでは、伝統的に木材をわざわざ雨にさらすことで、TCMBを蓄積させ、木材を腐りにくくすると同時に、燻蒸時に体の表面の有害微生物の殺菌に活用している可能性が想定された。 一方、乾燥した熱帯地域に自生する植物Rumex vesicariusのエタノール抽出物からは、加水分解型タンニンであるゲラニインとケブラジン酸、および4種のフラボノイド、ルチン、ペルタトシド、イソケルセチンが同定された。これらの化合物についてDPPH法で抗酸化活性を測定した。その結果、ゲラニインとケブラジン酸は強い抗酸化活性を有することが見出された。しかし、これらの化合物には強い抗菌活性や抗細菌活性を見出すことはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スーダンを含む北アフリカで使用される香木であるCombretum hartmannianumとTerminalia laxifloraについては、加熱により放出される揮発性成分をMonoTrapによる固相マイクロ抽出と現地での使用方法を模した煙トラップ法を用いて収集し、GC-MSにより分析する方法を確立することができた。得られたクロマトグラムとマススペクトルを詳細に解析し、多数の成分の同定に成功した。その結果、1,2,4,5-テトラクロロ-3,6-ジメトキシベンゼン(TCMB)など興味深い化合物を見いだし、これに基づき、現地で実際に行われている香木の生産方法が理にかなっていることと裏付けた。得られた成果をまとめた論文を既に投稿しており、現在、審査中の段階である。 一方で、熱帯産薬用植物についは、タデ科のRumex vesicariusとフクロソウ科のErodium glaucophyllumのアルコール抽出物に含まれる二次代謝成分をLC-MSで分析した上で、クロマトグラフィーを駆使して単離・精製し、NMRによる同定を進めている。R. vesicariusからは6種の、E. glaucophyllumからは4種の成分の同定に成功した。興味深いことに、いずれの植物からもゲラニインなど加水分解型タンニンが検出された。今後の生物活性試験の結果が期待される。 研究対象地域のスーダンが、内戦のため、外務省により退避勧告地域に指定されており、現地での調査を実施することができていないものの、スーダン側研究者が精力的な調査を行っている。頻繁にウェブ会議をおこない、得られた情報の共有に努めた結果、研究は概ね順調に遂行することができている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、香料に用いられるCommiphora africana とBoswellia papyriferaの樹脂、ならびに芯材についても、加熱や燃焼により生成する揮発成分の分析を進める。これらの樹脂から生成する揮発性成分をMonoTrapによる固相マイクロ抽出と煙トラップ法を用いて収集し、GC-MS分析を行う。さらに、検出された成分について現地での使用法を念頭において生物活性を明らかにする。C. africana とB. papyriferaの樹脂は身体の燻蒸に用いられるため、メラニン合成酵素阻害やメラノーマなどのがん細胞に対する増殖阻害など、皮膚の健全性に関する生物活性を検証する。さらに、いずれもチューインガムとしても使用されることが現地からの報告でわかってきたため、う蝕の原因菌であるStreptococcus mutansに対する増殖阻害やバイオフィルム形成阻害についても検討をおこなう。さらに、肺機能の改善のため、これらの樹脂から生成する煙を吸引することも行われる。そこで、肺がん細胞の増殖阻害などについても検討を行う。 一方で、熱帯産薬用植物についは、Erodium glaucophyllumに含まれる未同定の物質の同定を進めるとともに、これまで同定された化合物について、抗菌活性や抗細菌活性、抗炎症活性など現地での活用方法に沿った生物活性の検出を行う。 以上のように、今後は同定された化合物の生物活性の検証を推し進め、スーダンでの薬用植物の活用方法を生化学的に裏付ける研究を充実させる。
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