研究課題/領域番号 |
21KK0157
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分56:生体機能および感覚に関する外科学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
梶山 広明 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00345886)
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研究分担者 |
吉原 雅人 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (00878374)
佐藤 綾人 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任准教授 (10512428)
横井 暁 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30737135)
小屋 美博 名古屋大学, 医学系研究科, 特任講師 (80396960)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2021年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | プロテオミクス / 卵巣癌 / 悪性腹水 / 腹水 / ペプチド / 腹膜播種 / デグラドミクス |
研究開始時の研究の概要 |
悪性腹水中のジペプチジルペプチダーゼ酵素群を主としたペプチドバランスを、新規の質量分析手法であるTMT-TAILS法を用いたデグラドミクス解析によって明らかにする。また、腹腔内環境を構成する宿主細胞が、腫瘍の「味方」に至る腫瘍側誘導メカニズムに焦点をあて、腹膜中皮、脂肪細胞、および腫瘍随伴マクロファージといった免疫細胞などにおける包括的な機能解析を、「卵巣癌-腹膜間の細胞コミュニケーション」の観点から行う。さらに、アミノペプチダーゼ阻害剤による卵巣癌進行抑制効果を、実験動物モデルを用いて検証し、治療応用への可能性を模索する。
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研究実績の概要 |
本課題では、腹腔内全体を一つの生態的環境(エコシステム)と見なし、「卵巣癌-腹膜間の細胞コミュニケーション」をつなぐ主要な媒体である悪性腹水中のペプチドバランスに着目した新規卵巣癌腹膜進展の機序解明を目的とする。そして、フライブルグ大学分子医学研究所及び病理部に所属するOliver Schilling博士との国際共同研究の上、悪性腹水中のジペプチジルペプチダーゼ酵素群を主としたペプチドバランスを明らかとするために、TMT-TAILS法を用いて、N-ターミノームを網羅的探索することで、癌性腹膜炎化に対する寄与の大きい基質を見出すデグラドミクス解析を行う。さらに、腹腔内エコシステムにおける卵巣癌細胞と宿主細胞としての腹膜中皮細胞や脂肪細胞とが織りなす相互作用を標的として、進行卵巣癌の癌性腹膜炎化に至る新規メカニズムを解明する。最終的に、卵巣癌における腹膜環境の正常化に焦点にあてたジペプチジルペプチダーゼ阻害剤を治療応用につなげるべく、臨床上の活用を目指す。 本年度は、ジョイントディグリープログラムの一環として留学していた大学院生1名が留学を終えて帰国し、学位取得に至った。また前年度に行った卵巣癌悪性腹水の大規模プロテオミクス解析の結果得られた新たに3つの腹水分子型サブタイプと新規予後マーカーの同定という成果を踏まえ、得られたマーカー分子の機能解析実験を行った。これらの結果は今後の卵巣癌個別化医療の発展に寄与するものと考えられ、現在論文として報告準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、以下の内容に関する成果を挙げることができたと考える。 前年度までに高悪性度漿液性卵巣癌(HGSOC)91例から採取した悪性腹水を用いて、データ非依存解析(DIA)法による大規模プロテオミクス解析を行い、3つの異なる分子型サブグループを同定するとともに、Cox proportional hazards model by componentwise likelihood based boosting (CoxBoost法)を用いて、予後に関連するバイオマーカーを同定した。本年度は、この結果を発展させ、予後と最も相関するタンパク質Aの機能解析に着手した。大網手術検体から得られるヒト腹膜中皮細胞に、悪性腹水中で高濃度存在するTGF-bを添加すると、中皮細胞の中皮-間葉転換(Mesothelial-Mesenchymal Transition)が誘導され、卵巣癌細胞の接着・増殖が亢進することが知られている。リコンビナント・タンパク質Aで処理した後に、蛍光タンパク質を導入した卵巣癌細胞株(Ov-90-GFP)を用いて同様の検討を行うと、中皮細胞への卵巣癌細胞の接着が抑制されることを見出した。リコンビナント・タンパク質Aによる中皮細胞への影響については、現在オミクス解析により分析中である。これらの結果はプロテオームリソースとしての腹水の有用性を示唆するのみにとどまらず、腹膜播種を伴う進行卵巣癌に対する新規治療法の開発に示唆を与えるものである。今後、卵巣癌実験モデル動物を使用した検証実験を行い、これらを統合した内容の論文の作成準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19感染症の動向を考慮し、2023年度下旬に渡欧を予定している。これまでに得られている基礎的データをもとに、研究代表者がアミノペプチダーゼを用いた酵素反応実験を含むデータ解析やデグラドミクス解析を、Oliver Schilling博士とともに行う予定である。それまでは、フライブルク大学側の研究協力者とともにwebミーティングによる打ち合わせを行い、各施設での研究を進める。また当初からの標的である腹水中に存在する免疫細胞に対して、腹水が抑制的あるいは促進的に作用するかを、原因となる特異的物質とともに同定することで、腹腔内エコシステムにおける卵巣癌細胞の悪性化プロセスの解明と腹膜環境の正常化を目指した研究基盤の確立を目指す。
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