研究課題/領域番号 |
21KK0160
|
研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分57:口腔科学およびその関連分野
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
仲野 和彦 大阪大学, 大学院歯学研究科, 教授 (00379083)
|
研究分担者 |
野村 良太 広島大学, 医系科学研究科(歯), 教授 (90437385)
大川 玲奈 大阪大学, 大学院歯学研究科, 准教授 (80437384)
又吉 紗綾 大阪大学, 大学院歯学研究科, 特任講師(常勤) (70910214)
仲野 道代 (松本道代) 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (30359848)
仲 周平 岡山大学, 大学病院, 講師 (10589774)
吉田 翔 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (40801048)
後藤 花奈 岡山大学, 大学病院, 助教 (90846495)
|
研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
18,980千円 (直接経費: 14,600千円、間接経費: 4,380千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
2022年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | Streptococcus mutans / コラーゲン結合タンパク / 全身疾患 / 低中所得国 / シコニン / ハイドロキシアパタイト / RNAシークエンス解析 / 母子伝播 / 栄養摂取習慣 / う蝕 / 重度う蝕 / タイ / ミュータンスレンサ球菌 / 口腔サンプル / MLST法 |
研究開始時の研究の概要 |
う蝕の主要な原因細菌であるミュータンスレンサ球菌のうち、菌体表層にコラーゲン結合タンパクであるCnmを発現する菌株は、わが国の健常者の約10~20%に存在する。近年、Cnm陽性ミュータンス菌の保菌者では全身疾患のリスクが高まると考えられている。一方、低中所得国では医療環境が整っていない上に、食生活の変化による生活習慣病の増加が大きな問題となっている。そのような状況下で、口腔衛生不良により増殖したCnm陽性ミュータンス菌が全身疾患に関与している可能性が考えられた。本研究では、低中所得国におけるCnm陽性ミュータンス菌の分布に関する大規模調査を行い、全身疾患低減に向けた基盤を示したいと考えている。
|
研究実績の概要 |
Streptococcus mutansはう蝕の主要な原因細菌であり、菌体表層にコラーゲン結合タンパク(collagen-binding protein; CBP)を発現する菌株は、全身疾患に関与することが明らかになっている。本研究では、わが国の小児におけるCBP陽性S. mutansの分布に関する調査を行った。また、低中所得国で安全かつ簡易的にS. mutansを抑制できる手段として、多年草木であるムラサキの根から抽出したシコニンと、ホタテの貝殻から精製したハイドロキシアパタイトを用いて、S. mutansの抑制効果に関する検討を行った。 0歳から19歳までの小児452名からデンタルプラークを採取し、PCR法によりS. mutansおよびCBPをコードする遺伝子の検出を行った。その結果、S. mutansを保有する小児は163名(36.1%)であり、CBP陽性S. mutansを保有する小児は16名(3.5%)だった。S. mutansを保有する小児では保有しない小児と比較して、有意に高いう蝕経験歯数を示し(P<0.001)、CBP陽性S. mutansを保有する小児は保有しない小児と比較して、有意に高いう蝕経験歯数を示した(P<0.01)。 シコニン分散液とS. mutansを反応させたところ、シコニン分散液はS. mutansに対する高い抗菌効果を示した。また、シコニン分散液配合の歯磨剤を用いた臨床試験において、歯磨剤を1週間使用することにより唾液中のS. mutans菌数は有意に減少した(P<0.05)。一方、ホタテ貝由来のハイドロキシアパタイトはS. mutansに対する高い吸着能を示した。RNAシークエンス解析から、ハイドロキシアパタイトはS. mutansの糖代謝に関わる遺伝子の発現変化を生じ、S. mutansの増殖能が著しく低下することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、低中所得国の小児におけるCBP陽性S. mutansの分布に着目した研究に先駆けて、日本人の小児におけるCBP陽性S. mutansの分布に関する詳細な調査を行ってきた。その結果、過去の成人を対象とした報告と比較して小児のS. mutansの保有率は低い反面、CBP陽性S. mutansは小児においても一定の割合で存在することが明らかとなった。 本研究では、安全性の高い天然由来成分として、植物の根から抽出したシコニンと、産業廃棄物として処分されている貝殻から精製したハイドロキシアパタイトを用いて検討を行なったところ、いずれの物質もS. mutansに対する高い抑制効果を示した。今後、これらの物質を応用することで、CBP陽性S. mutansが関わる低中所得国におけるう蝕および全身疾患の低減に役立てることができると考えられる。 低中所得国での研究活動については、タイの共同研究者と定期的なWeb会議やメール会議を行って研究の方針に関するディスカッションを続けてきた。新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いた時期を見計らい、2023年の10月から11月にかけて、タイ・バンコクのマヒドン大学に出向き、現地の研究者とともにタイ人の口腔サンプル採取や臨床データの収集を行い、現在解析を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
複数の国立大学の研究施設とCBP陽性S. mutansの分布に関する多施設共同研究を進めていく。今後の研究では小児だけでなく成人も研究対象として、わが国の各地域に在住する世代の異なる被験者の口腔内におけるCBP陽性S. mutansの分布について明らかにしていく。また、低中所得国でCBP陽性S. mutansが関わる全身疾患に対して、予防法および治療法を提案するための研究を展開する。研究に用いる物質としては、予防薬や治療薬として安全かつ簡易的に応用できる天然由来成分に着目して、S. mutansに対して抑制効果を有する物質に関する研究を継続していく。 国外の研究としては、タイをはじめとする低中所得国の共同研究者と緊密な連携を取り、研究代表者と若手研究者を含むグループによる渡航を継続する。低中所得国では、被験者から口腔サンプル中のCBP陽性S. mutansを検出することに加えて全身的既往歴や生活習慣などの疫学データを採取し、日本と低中所得国で得られたデータとを詳細に比較する予定としている。さらに、低中所得国で分離したCBP陽性S. mutansを用いて、コラーゲン結合能の測定やカイコモデルを用いた評価など全身での病原性に関わる分析を行う予定としている。
|