研究課題/領域番号 |
21KK0212
|
研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
加藤 圭木 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (40732368)
|
研究期間 (年度) |
2022 – 2024
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
15,470千円 (直接経費: 11,900千円、間接経費: 3,570千円)
|
キーワード | 市民社会 / 歴史認識 / 日韓交流 / 地域社会 / ジェンダー / 歴史実践 / 植民地支配 / 朝鮮 |
研究開始時の研究の概要 |
日本と韓国をはじめとした東アジア諸国との間で、近代の戦争・植民地支配をめぐる葛藤が生じている。しかし、日本社会の人々、特に若い世代にとって日本の帝国経験はどこか遠くリアリティの感じられない出来事とみなされている。 以上の状況に対処するために、韓国に滞在し、韓国人研究者や韓国の学生・市民との共同研究等を実施するとともに、韓国での史料調査やフィールドワークをおこなうことで、(1)地域社会史を中心として帝国日本の歴史的経験を実証的に明らかにするとともに、(2)入門的書籍の開発などを含め、歴史教育や市民への歴史に関する知識の普及方法の検討にとりくむ。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は、韓国に長期滞在をし、(1)地域社会史を中心とした帝国日本の歴史の実証的研究、(2)入門的書籍の開発など市民に歴史を伝える方法を検討することである。 (1)に関しては、ソウル大学校奎章閣韓国学研究センターに滞在し、資史料の調査を進めるとともに、韓国の最新の研究状況に触れることができた。特に、地域社会史研究の一環として、朝鮮の地方財政において重要な位置を占めた助興税に注目して研究を進め、地域社会の構造をジェンダー史的観点から考察することができた。その成果は、ソウル大学校奎章閣韓国学研究センター主催のコロキアムで発表することができた。さらに、ソウルやその周辺地域、さらには江原道方面、釜山・巨済島、済州島などを中心に現地踏査を重ね、植民地期の地位社会の構造やその変容について理解を深めることができた。 (2)に関しては、加藤圭木監修、朝倉希実加ほか編『ひろがる「日韓」のモヤモヤとわたしたち』(大月書店、 2023年)、ならびに新たな歴史入門書である加藤圭木監修、一橋大学大学社会学部加藤圭木ゼミナール編『大学生が推す 深掘りソウルガイド』(大月書店、2024年)の制作を進め、刊行することができた。制作にあたっては、ソウルを中心に調査するとともに、研究協力者である著者たちと編集会議を重ねた。刊行後には、それぞれの書籍に関して市民向けシンポジウムを開催し、書籍の意義について考察を深めることができた。 さらに(2)に関連して、韓国国内で開催されたシンポジウムで日本の植民地支配認識や東アジアの平和構築の問題について多数の研究発表を行うことができ、韓国において研究ネットワークを拡大させることができた。 加えて、ソウル市立大学に滞在し、同大学の大学院生とともに韓国近代史に関するセミナー(講義)を継続的に実施し、日韓の歴史認識問題や植民地研究の方法について議論を深めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
市民向けの入門的書籍を加藤圭木監修、朝倉希実加ほか編『ひろがる「日韓」のモヤモヤとわたしたち』(大月書店、 2023年)と加藤圭木監修、一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール編『大学生が推す 深掘りソウルガイド』(大月書店、2024年)の2冊刊行することができたばかりか、市民向けのシンポジウムも複数回にわたって開催することができたことは本研究の成果を端的に示すものである。さらに、加藤圭木監修、一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール編『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(大月書店、2021年)の韓国語版として、『わたしたちが知らないことは悲しみになります』(ハッピーブックストゥーユー、2024年)が刊行できたことは、国際共同研究である本研究課題において貴重な成果である。 これまでに刊行した市民向けの入門的書籍に関して、考察を深め、韓国で多数の研究発表を行うことができたことは、当初の計画を大きく上回るものであった。特に、済州フォーラムや関東大震災100周年シンポジウムなどの場で研究発表を行うことができたことは、当初想定していないことであった。また、このようなシンポジウムがきっかけとなって、前掲『ひろがる「日韓」のモヤモヤとわたしたち』の韓国語版の出版が決まったことも強調しておきたい。 加えて、ソウル市立大学で同大学の大学院生たちと継続的にセミナー(講義)を実施し、研究代表者自らが教員としてセミナーを主催することは当初の計画を大きく超える成果であった。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年1月末までで韓国における長期調査を終えたので、2024年度は本研究のまとめの作業を行いたい。 まず、これまでに刊行した入門的書籍がいかなる意義を持つものであるのか、検証を深めていく。加藤圭木監修、朝倉希実加ほか編『ひろがる「日韓」のモヤモヤとわたしたち』(大月書店、 2023年)と加藤圭木監修、一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール編『大学生が推す 深掘りソウルガイド』(大月書店、2024年)を講義で活用し、その教材としての意義を検証する。加えて、大学生向けのソウルツアーを実施し、『大学生が推す 深掘りソウルガイド』をテキストとして活用することで、その効果を測定する。以上の内容について、考察を深めた上で、口頭報告や論文として発表していく。 2024年8月には歴史教育者協議会大会で上記の2冊の著者たちともに、主として現場の教員向けの講演を行うことがすでに決定している。この機会を活用し、教員や市民とともに、帝国経験のリアリティを社会に伝えていく方法に関して、議論を深めたい。 さらに、地域社会史に関する実証研究についても、韓国で収集した史料をもとに研究を深め、論文の執筆を進めていく。特に、地域社会の政治構造を理解する上で欠かせない税制度に関して検討を進める。その際に、日本本国との異同を明確にする必要があるので、日本での研究調査活動を本格化させる。 なお、昨年は韓国に一年間滞在した関係で日本国内でのフィールドワークが十分にできなかったことを踏まえ、東京を中心に日本の帝国経験の歴史を伝える場所を調査し、研究内容を補充していきたい。また、必要に応じて追加の資料調査などを目的に、韓国での調査を実施する。
|