研究課題
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
量子スピン液体とは量子揺らぎの為にスピンによる磁気秩序が生じない状態である。キタエフ模型は量子スピン液体状態を厳密解として持つが、そこではマヨラナフェルミオンや非可換エニオンといった新しい素励起が期待されており、これらは量子計算への応用も期待されている。しかし,その現実の候補物質においてはキタエフ模型からのずれの効果により磁気秩序が生ずるため、現状は高磁場で磁気秩序を抑制する必要がある。本研究では,新規な物質制御手法により磁気秩序を抑制することで,弱磁場でのキタエフ量子スピン液体状態の実現を目指し、その理解を進展させる。
本研究は、キタエフ量子スピン液体候補物質において、結晶格子の点欠陥量や格子長などを可逆的に変化させることで、キタエフ量子スピン液体候補物質の基底状態を制御することを目的とする。現状、ほぼ全てのキタエフ量子スピン液体候補物質は、低温で磁気秩序状態を示すため、現実の物質においては基底状態として量子スピン液体を見出すことは非常に難しい。このような状況に対して、キタエフ量子スピン液体候補物質alpha-RuCl3においては、蜂の巣格子面内に7T以上の磁場を印加することで、磁気秩序を抑制し、無秩序状態を見出すという研究が多く行われてきた。この磁場誘起の無秩序状態においては、キタエフ量子スピン液体状態を示す実験的結果も多く報告されているが、無磁場または低磁場におけるキタエフ量子スピン液体の振る舞いはまだ分かっておらず、その実現が期待される。alpha-RuCl3は、7Kでジグザグ構造を持つ反強磁性状態へと転移するが、本研究により点欠陥を導入することにより、その転移温度を半分以下程度まで抑制することに成功した。導入した点欠陥量は、1%にも満たなく、同様に磁気秩序を抑制する元素置換効果と比較すると、非常に少ない不純物量で磁気秩序を抑制できていることになる。このような、格子欠陥を導入した系において、低温で比熱測定を行ったところ、キタエフ量子スピン液体におけるマヨラナ励起構造を示していることが分かり、格子欠陥を導入してもその振る舞いは強く残ることが分かった。
3: やや遅れている
当初予定していた海外渡航期間において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により一部海外渡航への制限が生じた。このため、本来渡航先で行う予定であったものを海外共同研究者に協力頂き実施するとともに、オンラインでの会議等により対応した。しかしながら、本来現地で行うことができた実験研究が一部行えなくなったことにより、当初の予定よりも遅れが生じた。また、現在の物流のサプライチェーンの一部混乱による、実験備品の調達難が生じており、このことも先述したことに加えて遅れが生ずる事由となった。
格子欠陥を導入するためには本研究の海外渡航先の大型装置を用いる必要があるため、今後は目的の渡航先への滞在を行い、より多くの格子欠陥を導入し磁気転移を抑制することを目指す。さらには、異なる格子欠陥量に対して、低温でのマヨラナ励起がどのように変化するか系統的に調べてゆく。一方、格子長を制御した際の試料の変化も調べてゆく。特に、alpha-RuCl3の蜂の巣格子の異方的な変形に対する基底状態の変化を、低温精密バルク測定から探ってゆくことで、新規な手法によるキタエフ量子スピン液体の実現可能性を検証してゆく。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Nature Communications
巻: 14 号: 1 ページ: 667-667
10.1038/s41467-023-36273-x
巻: 14 号: 1 ページ: 1260-1260
10.1038/s41467-023-36725-4
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 119 号: 18
10.1073/pnas.2110501119
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 91 号: 10 ページ: 104706-104706
10.7566/jpsj.91.104706
https://sites.google.com/view/yutamizukamipage/home