研究課題/領域番号 |
21KK0250
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分24010:航空宇宙工学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
寺島 洋史 (石原洋史 / 石原 洋史) 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (20415235)
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研究期間 (年度) |
2022 – 2024
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
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キーワード | 超臨界圧燃焼 / LES解析 / 火炎モデル / 詳細反応 / 気液二相流 / 超臨界流体 / 乱流燃焼モデル / 詳細反応機構 / LES |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,航空宇宙推進器等で見られる超臨界圧燃焼流れ場の高精度予測を可能とする数値シミュレーション(超臨界圧燃焼CFD)技術の開発を目指す.その中でも特に,予測精度向上の鍵となる化学反応項LES(サブグリッドスケール:SGS)モデルの研究開発とその加速を本国際共同研究の目的に据えている.日本および海外共同研究者が,化学反応項LESモデル構築という共通課題に対し,それぞれ異なる視点,数学的また物理的視点,を持ち寄り研究を推進する.海外研究機関の長期滞在で得られる集中的な時間および議論を通して,化学反応項LESモデルの新たな構築を行い,超臨界圧燃焼CFD技術の予測精度向上を実現する.
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研究実績の概要 |
乱流燃焼現象で重要な要素と考えられる火炎速度に対する火炎伸張効果を粗い格子でも再現可能な新たなLES火炎モデルの開発を実施した.本モデルは,火炎帯を人工的に厚く(火炎帯拡大化)するTFモデルを土台としているが,火炎帯拡大化によって火炎速度に対する伸張効果が適切に再現できなくなる.そこで,本研究では,支配方程式の空間フィルター化によって発生する余剰項に着目し,Markstein長さを用いた理論火炎速度が再現できるようにフィルター余剰項を構築した.余剰項の構築に基づいたTFモデルはこれまでに無く,新しいTFモデルの提案ができたと考えている.妥当性検証のために実施した円筒伝播火炎問題では,直接数値解析(DNS)に対して約20倍粗い格子幅においても,本モデルによって火炎速度に対する伸張効果が適切に再現できることが示された.これは3次元解析の場合,約1/8000の計算格子数で解析できることを意味しており,本モデル開発の意義は非常に大きい.更に,本モデルを渦火炎干渉問題に適用し,渦速度によって伸張そして変形する火炎形状(DNS解)を粗い格子で再現できることを確認した. 本研究の解析対象に想定している液体ロケットエンジン燃焼場では,熱力学特性が大きく異なる流体が混合し燃焼する.この場合,流体接触面において大きな虚偽圧力振動が発生し,計算不安定をもたらすことが知られている.海外共同研究者も同様の問題意識を抱えており,接触面における虚偽圧力振動を軽減できる(圧力平衡を満たす)数値解析手法の開発に取り組んだ.結果として,これまで実現できていなかった支配方程式の保存性を維持しつつ圧力平衡を満たす数値解析手法の開発に成功した.化学種質量保存式およびエネルギー保存式における数値流束を圧力平衡条件が近似的満たされるように導出したもので,実在流体状態方程式を含め一般的な状態方程式の適用が可能である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本国際共同研究では,超臨界圧燃焼流れ場の高精度予測を可能とするCFD技術の開発を目指している.超臨界圧燃焼CFDの基盤技術においては,熱物性,輸送物性モデルに加えて,従来はほとんど考慮されない化学反応率に対する非理想性モデルを導出し,実装および評価することに成功した.得られた成果は,燃焼分野のトップジャーナルであるProceedings of the Combustion Instituteに掲載された.燃焼流れ場の予測に重要となるLES火炎モデル開発は,火炎帯を人工的に厚くするTF火炎モデルをベースに,乱流火炎現象で重要と考えられる火炎速度に対する火炎伸張効果を粗い格子においても正しく再現可能なモデル開発をほぼ完了した.本モデルは,火炎速度と火炎伸張率の関係をMarkstein長さで結びつける理論式に基づいたもので,直接数値解析(DNS)の結果を粗い格子でも再現できるようフィルター余剰項を構築したものである.円筒伝播火炎や渦火炎干渉問題を通して,本モデルの妥当性を検証し,非常に粗い格子を用いたとしても,DNS解を再現できることを示した.幾つか先行モデルが存在するが,LESフィルター余剰項という観点でモデルを導出した結果,本モデルではルイス数を含め,燃焼流れ場で重要な無次元数が維持され,先行モデルに対して優位性を有する.査読論文を近日中に投稿する予定である.さらに,超臨界圧燃焼流れ場では接触面において虚偽圧力振動が発生し,安定な計算が困難になることが知られている.海外共同研究者とこの問題にも取り組み,従来困難と考えられてきた支配方程式の保存性を満たしつつ接触面における圧力平衡が満たされる数値解析手法の構築に成功した.成果は査読論文として投稿中である.いずれも超臨界圧燃焼流れ場の解析に重要な要素であり,学会や査読論文として成果発表を進めている.よって研究進捗は順調といえる.
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今後の研究の推進方策 |
火炎速度に対する火炎伸張効果を粗い格子で再現可能なLES火炎モデルについての研究開発は順調である.超臨界圧燃焼場では火炎帯は薄くなるため,本モデル使用の有効性は非常に大きいと考えている.一方,課題として,モデル定数の一部が適用する燃料に依存することが挙げられる.炭化水素燃料(メタンとプロパン)であればほぼ同じ値を取れるが,水素はやや異なる値となる.その原因として,我々が独自に開発した局所TF(localized thickened flame: LTF)モデルが持つ局所性が原因であることを特定している.この課題に対しては,火炎帯厚さと火炎帯拡大率の関係に燃料依存性があるのではないかと考えており,統一したモデル定数導出に向けて検討を進める.また,本モデルを一様乱流火炎干渉問題に適用し,より一般的な乱流場においてモデルの有効性検証を進めることが重要と考えている.結果によっては,乱流火炎干渉を再現する新たなフィルター余剰項の構築を実施する.一方,本モデルは予混合燃焼問題に対して開発されたものであるが,非予混合燃焼問題への適用性について検討を進めることも重要と考えている.有限反応率を考慮した燃焼CFD技術の利点として解析対象の燃焼形態を選ばない(予混合と非予混合を統一的に扱える)ことが挙げられる.適用する火炎モデルもその利点を有するべきであり,非予混合燃焼におけるTFモデル拘束条件の検討を進め,統一火炎モデルの提案を行いたい.
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