研究課題
基盤研究(B)
水素と格子欠陥の動的相互作用の原子レベルでの検出に向け、実用的に広く用いられている焼戻しマルテンサイト鋼の一定弾性引張応力下における吸蔵水素量の変化、および格子欠陥量の変化、さらには形成された水素誘起格子欠陥と水素脆化の関係を調査し、以下の知見が得られた。1.水素をトレーサーとして格子欠陥量の変化を測定した結果、水素を含んで一定弾性応力を負荷すると、応力負荷初期に格子欠陥量は一旦減少し、その後、応力負荷時間とともに増加する。特に、破面近傍部の格子欠陥量は破面から離れた部分に比べ著しく増加する。また、陽電子プローブマイクロアナライザーにより格子欠陥の分布を測定した結果、水素を含んで一定弾性応力を負荷した試験片のみ平均寿命が長い。さらに、破面近傍部において特に平均寿命が長く、高密度の空孔、および空孔クラスターの形成を示している。これらの水素をトレーサーとした格子欠陥量の結果と陽電子プローブマイクロアナライザーによる格子欠陥分布の結果はよく一致している。2.水素を含んで一定弾性応力を負荷した時間とともに増加した水素誘起格子欠陥は、200℃のアニールにより消滅する。また、陽電子プローブマイクロアナライザーにより200ps以上の長寿命成分が検出される。両手法の結果とも、形成した水素誘起格子欠陥は転位でなく空孔および空孔クラスターであることで一致している。3.水素を含んで一定弾性応力を負荷した時間とともに形成促進される空孔および空孔クラスターを予め多く含むほど、脱水素後の引張試験による延性低下は大きい。一方、200℃のアニールにより空孔および空孔クラスターを消滅させて引張試験すると、延性は回復する。すなわち、蓄積した空孔および空孔クラスターは、水素が無くても直接延性低下を引き起こすことが見出された.
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ISIJ International
巻: 52 ページ: 198-207