研究概要 |
肺がん細胞株E522Lはadenocarcinoma組織から樹立された細胞株で、β_2ミクログロブリン蛋白の発現消失により細胞表面にHLA class-I分子を全く発現しない。目的とするHLA-A24を細胞表面に発現させるために、β_2ミクログロブリンとHLA-A24重鎖をグリシン-セリンのリンカーで共有結合させた単鎖HLA-A24分子およびCD86分子をこの細胞株に導入し、CTL誘導のための人工抗原提示細胞を作製した。 この人工抗原提示細胞から"がん幹細胞"の形質を持った細胞を得るために、無血清培地にEGF、 bFGFなどの幹細胞増殖因子を添加して数週間培養し、球状の塊で増殖する細胞集団(以後スフェアと称す)を得た。造腫瘍性を確認するために、スフェアと元のE522L細胞を免疫不全マウスの皮下にそれぞれ100万個ずつ接種した。しかしながら、スフェアにおいても3匹中1匹で腫瘍の形成がみられるだけであった。また、"がん幹細胞"の自己刷新性の維持に必要な転写因子(Naonog, Sox2, Oct-4など)の発現をRT-PCR法で検討したが、元のE522L細胞とスフェア間で明らかな違いを見出すことができなかった。 今回、"がん幹細胞"培養条件で得られたスフェアは、当初の予想に反して"がん幹細胞"としての形質を保有していないことが判明した。現在、他の肺がん細胞株数種からスフェアを培養し、"がん幹細胞"の形質を保有しているものを探している。そのような細胞を同定した後に、人工抗原提示細胞に変換してCTLの誘導を進める予定である。
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