研究概要 |
平成22年度では,次世代の超機能材料・未来技術として注目される有機磁性体の研究において,出発原料として重要な位置を占めている1,3,5-トリベンゾイルベンゼン(2)の合成に着目した。高温高圧水の特性に着目し,これを反応場とすることで有機溶媒や添加触媒を用いない2の効率的かつ環境調和型プロセスの確立を目的とした。併せて,フェニル基上に各種置換基をもつ原料を用い,反応の一般性を確立することとした。その結果,有機溶媒を使うことなく,触媒無添加で2の合成に成功した。反応温度200℃,反応時間7min,物質量比純水/2が400/1の条件において最大収率65%を達成している。 平成23年度では,DDSなど生体医療分野での応用が期待されている1,3,5-トリアセチルベンゼン(4)の合成に着目した。4の合成法としては,原料3の他に有機溶媒および触媒を加え,長時間の加熱還流による合成が一般的な手法である。この反応に対しても高温高圧水を反応場として用い,様々な反応条件における4の合成や酸性または塩基性条件下が収率におよぼす影響ならびに反応機構について検討を行った。その結果,3を原料として,水中で触媒を添加することなく4の合成に成功した。反応温度150℃,反応時間7min,物質量比純水/3が200/1の条件において最大収率88%を得た。また,反応場のpHを3,4,10および11と設定し,上記と同様の実験も行った。その結果,反応場は酸性・塩基性において4は収率65%で生成した。この時の反応機構については,酸触媒存在下では環化三量化反応,塩基触媒存在下ではマイケル付加反応により反応が進行し,各条件下における反応は解離しているH+およびOH-が触媒として機能していると考えている。この反応では触媒無しの条件において最も4が高収率となったことから,高温高圧水中における有機反応の有用性を示した。 有機合成反応の大量連続合成を目的として,流通式反応装置の作製も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機磁性体,生体医療分野などで注目されている高機能有機材料の合成が,水の特性を生かすことで有機溶媒を使うことなく,触媒無添加で成功しており,その成果も学会発表,論文掲載,特許出願にまで至っているところから順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成22年度では,エチニルフェニルケトン(1)を原料として,有機溶媒を使うことなく,触媒無添加で1,3,5-トリベンゾイルベンゼン(2)の合成に成功したが,1の反応が高温では速やかに2を与えるばかりでなく、アセトフェノンを副成し、その結果2の収率が減少する。この反応全体を速度論的に解析し、反応機構を確立する。また,2の合成原料である1は必ずしも廉価な試薬ではない。そこでアセトフェノンから出発して1-フェニルー3-メトキシー2-プロペンー1-オンを合成し、4の合成を参考として、高温高圧水中、触媒無添加で2を合成する経路を確立する。さらに,昨年度製作した流通式反応装置の改良を行い,マイクロ・リアクタによる連続合成装置の開発と最適合成条件の策定を行う。
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