研究概要 |
現在,我が国のジュゴンは沖縄島北部の東海岸を中心に目視情報が報告されているが,その生息数は非常に限られておりその保全が求められている.しかしながら,琉球列島のジュゴンに関する知見は少なくより効果的な保全対策を検討するための科学的知見はほとんど存在しない.本種のように広い生息範囲を有する海生哺乳類の個体群構造・動態および個体群間の関係を推察する上で,形態学的変異や遺伝情報を利用した解析は有効な方法のひとつである.しかし,琉球列島のジュゴンに関しては,これまで個体群解析は行われておらず,その個体群構成,遺伝的多様度などに関する知見は非常に乏しい.そこで本研究では,琉球列島内の新城島において保存されているジュゴンの頭骨を用い形態学および分子系統学的検討を行い琉球列島および周辺のジュゴン個体群間の関係性と遺伝学的特性を明らかにするとすることを目的とした. 本年度は初年度で実行した琉球列島個体群のmtDNA分析および頭骨形態における地理的変異の解析のための形態学的調査を継続し行った. mtDNA分析では,コントロール領域の多様性が比較的高い領域において330塩基対の塩基配列を決定し,54個体から5つのハプロタイプを得た.これまで琉球列島のジュゴン個体群からこれほどまとまった標本数を用いての塩基配列決定の報告はなく,本研究にて得られた大きな成果である. また,頭骨における形態学的研究では,本年度はオーストラリアにおいて117個体の頭骨の計測を行った.本年度と昨年度の調査結果を照らし合わせジュゴンの頭骨形態における地理的変異の解析した結果,アジアとオーストラリアの個体群間の吻部に関して地理的な変異が検出された. 今後これらのデータのさらなる解析および調査の継続により琉球列島内外を含めた個体群間の交流の一端を明らかとすることができると考えられる.
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