研究課題
基盤研究(C)
平成22年度に、200種類の天然低分子化合物からなる低分子化合物ライブラリーについてHNF3β発現誘導性化合物を探索した。スロットプロット法およびウェスタンブロット法によりHNF3βタンパク質レベルへの影響を比較し5種類の化合物を候補として選出した。しかしながら、これらの天然低分子化合物の誘導活性は低く、間葉系幹細胞から機能性肝細胞への分化誘導には不十分であると判断した。平成23年度は、ヒトおよびマウスES細胞において内胚葉への分化を誘導し、その結果HNF3β発現を強く誘導することが報告されている低分子化合物、IDE1およびIDE2(Borowiak et al, Cell Stem Cell, 2009)に着目した。IDE1およびIDE2は、アクチビン受容体ALK4を介するシグナルを活性化することによりHNF3βを含む内胚葉特異的遺伝子の発現を誘導することが報告されている。しかし、ヒト間葉系幹細胞に対する作用については未だ明らかにされていない。そこで、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞株UE7T-13について、IDE1およびIDE2によるアクチビンシグナル活性化について検討した。乱K4によるSmad2リン酸化を指標としてアクチビンシグナル活性化を検討した結果、ヒトES細胞のみならずヒト間葉系幹細胞においてもIDE1およびIDE2によりアクチビンシグナルが活性化されることが示された。平成24年度は、アクチビンをコントロールとしてIDEIおよびIDE2の乱K4活性化能を比較した。その結果、IDE1あるいはIDE2単独処理によるSmad2リン酸化はアクチビン処理に比較して微弱であり、HNF3βを含む内胚葉特異的遺伝子の発現誘導には不十分であると推測された。一方、ヒト間葉系幹細胞において顕著に活性化されているWnt/β-カテニンシグナルは、アクチビン受容体の偽受容体分子の発現を高めることによりアクチビンシグナルを負に制御している。そこで、Wnt/β-カテニンシグナル抑制性低分子化合物、ヘキサクロロフェンとIDEIあるいはIDE2の併用によるシグナル増強を試みた。これらの低分子化合物の併用により、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞株UE7T-13は上皮細胞様の形態へと変化した。今後、HNF3βを含む内胚葉特異的遺伝子の発現誘導について検討が必要である。
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