研究概要 |
本研究課題は、神経損傷に起因する神経因性疼痛の発症機序を担うリゾホスファチジン酸受容体(LPA_1)シグナリングを軸とし、(1)有髄A線維の機能亢進と(2)脱髄現象、および(3)無髄C線維の機能消失の分子基盤について、エピジェネティクスの観点から解明することを目的とする。当該年度では、第一に、LPA処置後の脊髄後根神経節において発現増加し、A線維の機能亢進に関与する電位依存性カルシウムチャネルα2δ-1サブユニットについて、その遺伝子プロモーター領域におけるヒストンアセチル化をスキャニング解析した。その結果、LPA処置によりヒストンアセチル化の増加を示す、複数の領域を同定した。第二に、LPA処置後の脊髄後根において、ミエリン関連遺伝子群の転写抑制因子であるc-Junの遺伝子発現が、長期的に増加することを見出した。さらに、LPA処置後のc-Jun遺伝子プロモーターでは、ヒストンアセチル化の増加傾向が認められた。第三に、C線維の機能消失の分子基盤として、神経損傷後では転写抑制因子NRSF/RESTの発現が増加し、ヒストン脱アセチル化を介するC線維遺伝子群(Na_v1.8,MOP,K_v4.3)の遺伝子サイレンシングが生じる(Uchida et al., Neuroscience, 166,1-4,2010;Uchida et al., J Neurosci., 30,4806-4814,2010)という知見を踏まえ、NRSF発現増加がLPA_1受容体非依存的であること、およびC線維遺伝子群の発現低下とC線維の機能消失(知覚鈍麻とモルヒネ抵抗性)に対してHDAC阻害薬が抑制効果を示すことを明らかにした。本研究結果は、神経因性疼痛の分子基盤を担う、LPA_1受容体依存的・非依存的なエピジェネティクス機構を解明するとともに、エピジェネティクス治療法の有用性を見出した点において大変意義深い。
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