研究概要 |
近年の色覚の研究においては,桿体細胞の色知覚への関与や神経節細胞における感光物質の発見など,従来の3色型色覚だけではない新たな光感覚メカニズムについての報告がなされている.このため環境に存在するさまざまな光に対して我々の視覚系がどのような処理を行うのかを知るためには,従来用いられてきた3原色による条件等色型画像提示装置では完全な色再現はできない.一方において印刷、写真、モニタ画像などにおいて、色再現の質が益々重要になっている。そこで任意の分光分布をもつ2次元の色刺激を提示するため,プログラマブル光源を用いて走査式画像提示装置を試作した.この視覚刺激提示装置では、分光素子に回折格子を用いて単色光を生成し、市販のプロジェクターでも使われている液晶パネルにより反射角を変化させてスペクトルを作り、この光の方向をスキャナーミラーを用いて高速に変化させ空間に展開して,画像内の各線分画像要素が任意の分光分布を持つ画像を生成した.これまでの条件等色により実現されたRGB3色の光源を使った表示装置の問題点は、標準観測者と等色関数が異なるときには光源の色再現が完全にはできないことと、3色の光源では色空間を完全にカバーできないことであった。そこで、可視波長帯の2nm程度毎に単色光源をもつことと等価な、画期的な表示装置の開発を行った.そして各格子縞が任意の波長分布を持つことのできる、高速な書き換えが可能な視覚刺激提示装置を試作することができた。この装置を用い,色の質感に関する測定を行った.これは任意の分光分布による画像と3原色画像を用い、色弁別課題を用いて視細胞の感度を考慮した色の見えの差を測定した。この結果,両画像の差異は知覚可能であることがわかった.このメカニズムについては,色順応等のテクニックを用い,高次過程の役割も検討する必要があると考えられる.
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