研究概要 |
虚血耐性/ニューロン頑強性の基礎的機構の一つがオートファジーであるという仮説を立て,オートファジーのマーカーであるmicrotubule-associated protein1 light chain 3 (LC3)の発現をヒト剖検脳と申請者らの確立した慢性脳低灌流モデルマウスを用いて観察したところ,1.慢性低灌流を背景とする血管性認知症であるビンスワンガー病の剖検脳では,大脳皮質第5層のニューロン細胞体のLC3の発現が一貫して上昇しており,コントロール脳やアルツハイマー病でほとんど発現が見られないことと対照的であった.2.慢性低灌流モデルマウスの大脳皮質ニューロン細胞体ではLC3の発現が顕著に増加していた.したがって,慢性虚血脳の大脳皮質ニューロンでは,慢性虚血という一種の飢餓状態への耐性機構としてオートファジーが作動し,その機構が破綻することで神経細胞死が誘導されるのではないかという作業仮説を立てた.しかし,LC3やオートファジー小胞に発現するLC3-IIは,後期虚血耐性が誘導されるとされる虚血プレコンディショニング後24時間以降ではむしろ発現が低下しており,この時間的連関からは,虚血耐性機構にオートファジーが関連しない可能性が示唆された.一方,オートファジー関連タンパク質は,虚血プレコンディショニング後3-12時間の本来虚血耐性が誘導されない時間帯に発現が増強していた.虚血プレコンディショニング直後にオートファジー阻害薬3-MAを脳室内投与しておくと,中大脳動脈閉塞による梗塞巣の拡大が観察されたことから,オートファジーは虚血耐性には直接関わっておらず,虚血早期に起こる別の保護機構に働いていることになる.現在,その保護機構を突き止め,更なる検討を進めている
|