研究課題
挑戦的萌芽研究
シナプス可塑性のもっともよく知られた誘導ルールはスパイクタイミング依存性可塑性(STDP)である。本研究ではSTDPのルールを根幹から疑うことをスタート地点として研究をスタートした。手始めに、スパイクの伝導遅延に着目し、これがシナプスに到達するまでに時間差をもたらすことを仮定し、軸索の中途から伝導中のスパイクを記録したところ、活動電位の波形が摂動により変形しうることを見出した。具体的には、海馬培養スライス標本において、海馬CA3野錐体細胞の細胞体にAlexa Fluor蛍光色素を注入することで軸索を可視化し、細胞体から150-700μm離れた軸索からパッチクランプ記録を試みた。この記録のために、蛍光アルブミンタンパク質を電極表面にコーティングしてパッチクランプ電極を蛍光可視化した。細胞体と軸索の中間領域に、10μMグルタミン酸を局所的に適用したところ、軸索の活動電位幅が可逆的に増大した)。この効果は、非NMDA型グルタミン酸受容体アンタゴニストであるCNQXにより消失した。活動電位の増大がどれほど遠方に伝播するかを調べるため、グルタミン酸の適用領域から様々な距離において記録を行った。その結果、適用部位から遠ざかるほど、活動電位幅の増大効果は小さくなり、その減衰距離定数は223μmであった。これまで、神経細胞はアナログ入力(シナプス電位)をデジタル出力(活動電位)する「アナログ→デジタル変換素子」として捉えられてきた。すなわち、軸索起始部で発生した活動電位は、その後、減衰することなく一定の強度で軸索の終末まで伝播し、シナプス出力に直結するという概念である。この教科書的な基本則に反し、本研究では、i)活動電位の波形が軸索伝導中に変形されうること、そして、ii)その変形によってシナプス出力がアナログ的に変調されるという2つの重要な知見を明らかにした。
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Biol.Pharm.Bull.
巻: in press
130000657793
Neural Netw., 23:669-672, 2010.
巻: 23 ページ: 699-672