研究概要 |
国内では虚血性心疾患,脳血管疾患などの動脈硬化を起因とする死亡原因が26%程度占めているため,いかにして,動脈硬化性疾患やそのリスクを軽減させるための生活習慣の改善を促せるかが重要な課題である。しかし,運動効果には,個人差があることから,動脈硬化に対する運動指導には個人対応型のテーラーメイド運動指導が必要であると考えられる。本研究では,動脈硬化指標と運動効果の個人差に影響を及ぼす血管拡張・収縮調整性因子の遺伝子多型を探索することを目的とした。被験者は,喫煙習慣はなく,慢性的な疾患を有しない,18~70歳までの男女763~843名を対象とし,5,10-methylenetetrahydrofolatereductase遺伝子多型(MTHFRC677T)やfatty-acidbindingprotein2遺伝子多型(FABP2Ala54Thr)をTaqman法にて判定し,動脈スティフネスの指標として頸動脈β-stiffnessおよび血圧を測定した。体力レベルは最大酸素摂取量を測定し,各年代・性別ごとの最大酸素摂取量の中央値を基準に体力の高い群(High-Fit群)と体力の低い群(Low-Fit群)に分けた。MTHFRC677TのTT型は,High-Fit,Low-Fit群ともに有意に高い血中ホモシステイン濃度を示した。Low-Fit群においてMTHFRC677TのTT型の頸動脈β-stiffnessはCCおよびCT型よりも有意に高値を示した(p<0.05)が,High-Fit群では多型間に差が認められなかった。一方,FABP2Ala54Thrの遺伝子多型間においては,Low-Fit群において,FABP2Ala54ThrのThr/Thr型と比較して,Ala/Ala型の頸動脈β-stiffness,収縮期血圧,拡張期血圧は有意に高値を示した(p<0.05)が,High-Fit群では,多型間で差が認められなかった。本研究の結果から,運動習慣のない者は,MTHFRC677TおよびFABP2Ala54Thr遺伝子多型による動脈硬化リスクの多様性に影響するため,継続的な運動の実施を指導する必要性がある可能性が示された。
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