研究概要 |
未知な海洋性のポリリン蓄積細菌の存在と動態を明らかにし,排水処理で適用されている生物学的リン除去の原理を応用して,この微生物を新規のDHSバイオリアクター内に高濃度に保持させ,海水を約5000倍に濃縮した100mgP・l^<-1>以上の高濃度リン含有液として回収できるかどうかを実験により検討した結果,次の知見を得た。 模擬海水を用いたDHSリアクターからのリン回収実験において,ポリリン酸の蓄積と放出を行う微生物を集積して,分子生物学的手法の16S rRNA遺伝子のクローニングによる群集構造解析を行った。海洋性のポリリン蓄積細菌は,淡水性のポリリン蓄積細菌に近縁であることを明らかにした。そこで,海洋性のポリリン蓄積細菌は塩濃度が小さくても活性があることが分かった。従って,下水だけでなく海水からでもリンを回収できることが示唆された。嫌気時間と好気時間のサイクルは,リンの摂取・放出量に大きく影響を及ぼし,嫌気3時間,好気9時間の12時間サイクルがポリリン蓄積細菌の集積に適していることも分かった。その結果,5mgP・l^<-1>の海水では100mgP・l^<-1>以上の高濃度リン含有液として回収できることが実証された。しかしながら,実際の海水のリン濃度は0.02mgP・l^<-1>程度であり,下水のリン濃度よりも低いため,好気性条件下での海水からのリン取り込み速度が遅くなる。このことは海水のDHSリアクター内での水理学的滞留時間が長くなることを意味している。実用的に海水からリンを生物学的に回収するには,海洋性のポリリン蓄積細菌のより詳細な特性を明らかにして,DHSリアクター内に高濃度に集積できる至適な運転条件を見出す課題が残された。
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