本研究の目的は、米国移転価格税制の発展の歴史を概観しそれが抱える問題と原因を分析した上で、米国における税制改正の必要性と具体的改正案を提言することにある。80~90年代に行われた税制改革は、国際的な関連企業間取引における当事者の一方が有する無形資産について、直接的であれ間接的であれ評価を行い、比較対象取引の欠如に伴う問題に対処する試みであり、所得相応性基準、利益法、最適方法原則等の制度の導入に結実した。しかし、その後の執行状況は、移転価格が一義的に定まらず納税者と課税当局間での紛争が絶えないという根本的な問題を必ずしも解決するには至らなかったことを示している。その最大の鍵は移転価格算定方法にあると考えられる。理論と実務の双方の観点から見るとき、現行の複数の算定方法はいずれも長所・短所が相半ばする。加えて、最適方法原則は最適の基準が抽象的にならざるを得ないため執行面で問題が残る。本研究では、米国判例の分析をも踏まえ、各算定方法の長所・短所を相互に補う相補的アプローチを提言し、より柔軟な移転価格の算定可能性を示唆した。また、所得相応性基準が理論的に整合性の欠ける制度となっていることを指摘し、その改善と併せて事後的アプローチの一般的な導入を提言した。更に、(1)事後的アプローチの導入に伴う弊害や移転価格税制の特殊性に起因する過少申告のインセンティブを軽減する目的でペナルティを用いること、(2)所得の移転額と逆移転額を相殺するセットオフの義務的適用により過少申告のインセンティブを軽減させることも提言した。これらの提言は直接的には米国制度に関するものであるが、我が国の制度のみならず、各国が準拠するOECD移転価格ガイドラインに対する改正提言にもつながり得る。我が国の文書化、事前確認制度や費用分担契約についても改善提言を行ったが、国際世論をも巻き込み包括的で抜本的な制度再構築を図ることが求められる。
|