研究概要 |
目的: 単細胞性シアノバクテリアは概日リズムを示す最も単純な生物群である。申請者は連続明条件下におけるゲノムワイドな転写リズムを示すが,夜間には時計遺伝子を含むほとんどのmRNAが直ちに分解されるダイナミックなゲノム発現動態を明らかにした。このことから,シアノバクテリアの概日時計は暗期中で転写を制御しないと考えられたが,最近一部の暗誘導遺伝子群の暗誘導に時刻依存性,時計遺伝子依存性が見られた。このことは,従来真核生物にのみ想定されていた概日時計を介する光周的な遺伝子発現が,原核生物においても存在することを初めて示している。さらに,暗期中でも減衰振動発現を示す遺伝子を発見し,時計遺伝子の転写が停止する夜間においても概日時計が転写を調節できることが明らかになった。本研究では,これらの解析を踏まえ,シアノバクテリアの明暗応答と概日応答の統合的制御の分子機構を解明することを目的とした。 このため,とくに時計遺伝子kaiABCの転写翻訳が停止する暗期中で,digA遺伝子など少数の遺伝子群が概日転写振動(ただし減衰振動)を示すことに着目し,この発現パターンがシグマ因子に依存することを明らかにした(投稿中)。また,レポーターの作成も試みたが,暗期特有のマスキングがかかっているためか,あるいはレポーター蛋白質が発現しにくいためか暗誘導の転写レポーター作成には至っておらず,今後の課題として残った。いっぽう,その過程で時計遺伝子の概日発現の一細胞観測に成功し,コロニー内での位相の差(ばらつき)を確認した。
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