研究概要 |
従来、25-ヒドロキシビタミンD_3(25D3)は1α位水酸化酵素CYP27B1により1α,25-ジヒドロキシビタミンD_3(1,25D3)に変換され生理作用を示すと考えられてきたが、組織によっては25D3が直接作用している可能性がある。ヒト前立腺由来培養細胞(PZ-HPV-7)を種々の濃度の1,25D3あるいは25D3で数時間-数日間処理し、増殖抑制効果やCYP24A1のmRNA量変化を解析した。VDR核内移行の解析は免疫抗体蛍光法で行った。PZ-HPV-7に25D3(10nM)を作用させたところ、CYP24A1 mRNA量は最大で1000倍に増加した。細胞が合成する1,25D3の濃度では誘導倍率は100倍に満たなかった。また,100nM25D3によるVDRの核内移行は1nM1,25D3を作用させた場合とほぼ同様の時間依存性を示した。また25D3による細胞増殖抑制も観察された。PZ-HPV-7細胞における遺伝子発現をDNAマイクロアレイ解析したところ、100nMの25D3と10nMの1,25D3の影響はほぼ同様であり、このことから25D3が直接VDRに結合し作用する可能性が示唆された。細胞増殖抑制のメカニズムを解明するため、PZ-HPV-7を25D3あるいは1,25D3で処理するとガン抑制遺伝子であるcystatin Mやcystatin DのmRNA量は約3倍に増加した。一方,ビタミンDによる増殖抑制を受けにくい前立腺ガン細胞株(DU-145)では増加しなかった。しかし,HDAC阻害剤を添加すると転写が活性化されることから,エピジェネティックな制御がこれらの遺伝子発現に関わることが示唆された。さらに、CYP27B1ノックアウトマウスの近位尿細管の初代培養細胞を用いて25D3の作用機構を解析したところ、1,25D3は全く検出されないにもかかわらず、CYP24A1mRNAの著しい上昇が認められ、25D3が直接VDRのリガンドとなって作用することが決定的となった。また、野生型マウスの近位尿細管の初代培養細胞を用いた場合も生成される1,25D3の量は少なく、25D3が1,25D3に変換された後、VDRに結合するという従来の図式が必ずしもあてはまらないことが示唆された。今後、さらにマウス個体を用いた解析を進める予定である。
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