質量顕微鏡法とは、既存の質量分析法を応用し顕微鏡レベルの解像度で位置情報を失うことなく組織切片を分析し、得られたスペクトルから任意のピークを選択することで分子種に応じた分子分布および量をイメージングすることができる新たな解析手法である。ターゲットを絞らずに一度に数千種類の分子種を解析することができるため、従来の方法では診断し得なかった物質の同定が可能な方法であり、組織内物質を同定することで、病態に応じた分子動態や薬物動態等を知ることができ、ひいては病因解明にも結び付く可能性があるため、診断のみならず新たなバイオマーカーの発見、新たな治療戦略の構築などにつなげることができると考えられる。 まず、ファブリー病患者心筋生検組織およびファブリー病モデルマウス心の組織を質量顕微鏡に供した。その結果、ファブリー病で蓄積することの知られているglobotriaosylceramide (Gb3)に一致するピークを主に4種類検出することができた。これらは、Gb3の構成成分である脂肪酸の炭素鎖長が異なる分子種であった。これらのGb3は組織上の主に心筋内空胞変性部に一致して認められたが、4種のGb3が同一部位に存在する場合と互いに独立して存在する部位があった。ファブリー病モデルマウスの解析では、HE染色で明らかな心筋空胞変性が認められなかったにも関わらず、質量顕微鏡法ではGb3を検出することができた。 次に未知の蓄積病症例の心筋生検組織を質量顕微鏡に供した。その結果、蓄積している物質はグリコーゲンであることが証明された、従って、この症例は糖原病である可能性が強く示唆された。 以上の結果より、質量顕微鏡法を用いた解析では、従来法よりもより詳細な組織内物質の情報を知ることができると実証できた。今後、他の蓄積病に関しても本法を応用し、病態分析や病因解明などに寄与したい。
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