研究概要 |
本研究の目的は、がん化に伴うゲノム異常の協調的役割を検討するための新しい実験系の基盤形成を試みることにある。発想の原点はTriple hitと呼ばれるCCND1,BCL2,MYCの3種類の染色体転座を同時に持つ悪性度の高いリンパ腫患者が存在する事実である。これらの染色体転座は単独でも存在するが異なる悪性リンパ腫を形成する。3つの異なる染色体異常が同一患者に存在することは、これらの遺伝子の制御異常発現が協調的に働きがん化に働いていることを意味する。そこで、マウス正常造血器細胞の長期培養系を用いて、これらの3遺伝子を導入したところ、Feeder非依存性IL7非依存性の増殖を認めることが明らかとなった。この実験系を用い、CCND1遺伝子を欠く、BCL2,MYC導入培養細胞に、B細胞性細胞株から作成した発現ライブラリーを感染させ、CCND1の代わりに機能する遺伝子の単離を試みたところ、再現性を持って、変異RAS遺伝子とCCND3が得られた。CCND3はCCND1と発現様式が異なるものの、機能的には補完しうることが知られている。また、我々はこれまで、コピー数異常の領域の責任遺伝子としてCCND3を報告しており、がん化に関わることが知られている。また、公開データベースの探索から、BCL2とMYCのTwo hit転座を持つ患者にはCCND3が過剰発現されていることも明かとなった。これらの実験結果から、本実験系は有効に機能することを明らかにすることができた。問題点としては、培養系では特定の遺伝子のみがとれてくること、また、コロニー形成能は必ずしも感度の高いアッセイ系とはいえないことが明らかとなった。今後は、マウスを用いたin vivoのスクリーニング系も試してみることが必要である。予備実験では有効に機能することが示されつつある。また、BCL2,MYC以外の組み合わせでも同様の試みを行うことも重要な必要であるが、極めて有用な新たな機能実験のための基盤が確立できたことは意義が深い。
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