研究概要 |
我々はこれ迄、ヒト末梢血単核球(hPBM)移植NOD/Scid/Jak3-/-(hNOJ)マウスに赤色蛍光蛋白(mCherry)を標識したHIV-1(HIV_mC)を経腹腔的に接種、HIV-1感染初期における感染細胞の生体内播種のダイナミックスを検討し、in vivo imaging法、免疫染色法を用いて腹腔の大網やリンパ節にHIV-1p24産生を伴ったmCherry蛍光を検出した。2010年度は観察されたHIV初期感染動態が、抗HIV薬であるraltegravir (RAL;インテグラーゼ阻害剤)の投与下でどのように変化するか検討した。hNOJマウスに経腹腔的にHIV_mCを感染させ、24時間後からRAL(40mg/kg/day,bid,ip)を投与、7、14日後にHIV_mC感染hNOJにおけるウイルス学的、蛍光分析的、組織学的、免疫学的解析を行った。RAL投与群と非投与群を比較すると、前者でHIV RNAコピー数の減少などを認めたが、いくつかの個体ではウイルス血症が完全に抑制されなかった。HIVのpossible sanctuaryを仔細に検討したところ、大網に有意のmCherry蛍光シグナルを、またそれに一致してHIV-1 p24産生が観察され、これら細胞の主たる分画は単球系であった。これらの知見から、早期に感染が確立した細胞はRAL投与に拘らずそのエリアに留まり、HIV-1持続産生細胞となる可能性が示唆された。本研究はHIV-1感染細胞の視覚化がhNOJマウスにおけるHIV-1感染初期ダイナミクスの解析に有用な手法であることを示し、また治療によって抑制できないウイルス播種の機構と持続感染細胞の動態を検討する有効な手段になると示した。今後は人で見られる経静脈・経直腸など他の感染経路での播種の態様を検討する予定である。
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