研究概要 |
成体臓器の維持と組織障害後の修復過程において、胎生期臓器形成時に重要な役割を果たす遺伝子群がいかなる役割を担っているかを明らかにすることによって、臓器維持機構とさまざまな病態下における組織再生現象の理解を深め、もって臓器特異的幹・前駆細胞から目的の細胞への分化誘導を試みる再生医学への応用の糸口を探る事と、想定される癌幹細胞からの病的細胞分化ともいえる発癌機構の洞察に資することを目的とした。本年度の成果として成体肝・膵外分泌組織および腸管が一連のSox9陽性領域から生理的条件下にて持続的な細胞供給を受けて維持されていることを報告した(Furuyama, Kawaguchi et al. Nature Genetics 2011)。引き続き生理的条件下および種々の障害モデルにて、胎生期肝臓形成に不可欠な遺伝子prox1,膵臓形成に必須の遺伝子pdx1, ptf1aを成体肝・膵外分泌幹細胞であるSox9陽性細胞にてノックアウトした場合に、生理的臓器維持機構に破綻を生じるか否かの検討を行っている。これまでの結果からは生理的条件下にて成体Sox9陽性細胞でpdx1を不活化した場合、腺房細胞への分化は起こるがその後の細胞増殖能が低下すること、同様にprox1を不活化すると肝細胞分化は起こるが、その後の増殖能が低下することが分かってきた。(Ptf1a不活化実験については現在マウス交配中である。)胎生期にpdx1, prox1を不活化するとそれぞれ膵細胞、肝細胞の分化が全く認められなかった点を考慮すれば、少なくとも成体臓器維持機構における前駆細胞からの分化においては胎生期細胞分化機構とは異なったメカニズムが働いているとの結論である。一方、臓器障害後の修復過程においては胎生期臓器システムの再現が見られる報告が散見されており、今後、各種障害モデルとの組み合わせによって検証を加える方針である。
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