研究概要 |
アルツハイマー病(AD)では、アミロイドβ蛋白(Aβ)の脳内蓄積機構の解明が重要な課題となっている。我々は、Angiotenisn-converting enzyme(ACE)が、神経毒性の強いAβ42を神経保護作用をもつAβ40に変換する活性(Aβ変換活性)を有することを見いだした。更に、Aβ変換活性とアンギオテンシン変換活性がACEの異なるドメインに存在することを明らかにした。(Zou et al., J Neurosci, 27 : 8628-35, 2007 ; Zou et al., Rev Neurosci, 19 : 203-212, 2008 ; Zou et al., J Biol Chem, 284 : 31914-20, 2009)。一部のACE阻害剤は、Aβ変換活性をより強く阻害し、アルツハイマー病の発症に関与している可能性が考えられた。本研究は、これらの結果を踏まえ、ACE抑制が脳内神経細胞死に関連するか否かを検討した。 ACE阻害剤のカプトプリルを低濃度(lowc aptopril)と高濃度(high captopril)を二種類の投与をAPP tgマウスへ11カ月間連続投与し、17カ月齢マウス脳内のアミロイド沈着をthioflavin S染色で検討した。加齢対照群マウスの海馬および大脳皮質にアミロイド沈着が検出されたが、過剰用量のカプトプリルがAPPtgマウスの海馬および大脳皮質のアミロイド沈着を顕著に増強した。さらに、臨床に応用されている用量においても、アミロイド沈着の増強が認められた。これらの結果から、ACE抑制が脳内アミロイド沈着を促進することが示唆された。さらに、我々は、アルツハイマー病で良く見られるもう一つの病理像、tauのリン酸化が起きている否かを検討した。対照群に比べ、低濃度カプトプリル投与群では、脳梁神経細胞のtauリン酸化増強の傾向を示したが、有意差が認められなかった。高濃度カプトプリル投与群では、脳梁神経細胞のtauリン酸化が顕著に増強された。これらの結果から、ACE阻害が引き起こしたアミロイド沈着の増加がtauリン酸化を促進したと考えられる。また、高濃度カプトプリル投与群は大脳皮質の神経細胞が明らかに減少し、その局在が乱れていることを判明した。APPtgマウス脳内では、顕著な神経細胞死が通常認められていないが、ACE活性抑制APPtgマウス脳の病理像では、神経細胞死を含めアルツハイマー病患者脳の病理像と極めて類似していた。このことは、ACE活性低下がAβ42沈着の増加を招き、アルツハイマー病の発症と関連していることを示唆した。
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