研究課題
若手研究(B)
近年、内在性、外来など様々な機能性の非コード(nc) RNAが標的遺伝子のエピジェネティック制御に関与する事が報告され始めた。内在性ncRNAは細胞種特異的発現を示すものも多く、機能性ncRNAの細胞への導入によるエピジェネティック改変(発現制御)の効率化には、内在性ncRNAの標的遺伝子同定と発現状態との総合理解が必須である。昨年度の解析から、ES細胞でncRNA生成に関わる酵素の欠損により、DNAメチル化状態が変化する遺伝子を多数同定した。ES細胞の多能性維持に重要なSall4遺伝子は、プロモーター領域に長い一本鎖アンチセンスncRNA(ASncRNA)が存在し、このASncRNAによりDicer非依存的にDNAメチル化制御を受けることが判明した。そこで今年度は、Sall4遺伝子のプロモーター領域に存在するASncRNAに注目し、機能解析を行った。マウス繊維芽細胞では、Sall4はプロモーター領域が高メチル化で発現が見られないが、Sall4 ASncRNAを一過的に強制発現させることで、プロモーター領域の脱メチル化を誘導できた。一方、内在性Sall4 ASncRNAの機能を解析するために、ES細胞でASncRNAを標的とするshRNAを導入することでノックダウンしたところ、本来低メチル化のSall4プロモーターがメチル化され、Sall4遺伝子の発現も減少し、ES細胞の自己再生にも影響を与えることが確認された。本研究により、内在性Sall4 ASncRNAは、オーバーラップする標的領域の低メチル化状態を維持し、遺伝子の活性化に重要であることが示された。また、卵特異的ヒストンや環境中に残存する化学物質とエピジェネティクス制御についてもSall4遺伝子を中心に明らかにした。本研究により、ncRNAによりDNAメチル化状態が維持される遺伝子を多数同定できたことから、今後は内在性ncRNAの強制発現やノックダウンにより標的遺伝子のDNAメチル化状態の改変(エピゲノム改変)を基盤として、有用細胞や病態モデル動物を作製するための新技術の確立につながると考えられる。
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