研究概要 |
本研究では,タイ東北部の天水田集落における1963年から現在までの定点調査に基づき,タイ高度経済成長期における自給的稲作の継続メカニズムについて,水田の開発過程や所有の変遷および水稲生産量などの情報を用いて検討した.本研究では,まず,これまで蓄積されてきた農学および社会学的情報についてGIS(地理情報システム)を用いて統合した.次に,この情報を用いて世帯レベルでの長期的な米の生産と需給のバランスを明らかにした.本研究によって,対象地域の人々は,近年急速に拡大した都市の経済圏に取り込まれたにも関わらず,自給的な稲作については経済的な価値とは異なる価値基準において持続・維持がなされていることが示された.つまり,人々は,増加する農外収入を原資として農地整備や改良品種の導入,化学肥料の購入などを行い,元来毎年の生産量が不安定であった天水田をより安定的な収量が確保できる環境へと改変を行った.これによって,相続により細分化していく水田においても,世帯に必要な米生産量を得ることができたのである.本研究を通じて,現在のタイ東北部の天水田集落,特に都市近郊地帯については,農外収入と自給的稲作が車輪の両軸として機能させることによって,世帯毎に確たる生存基盤を構築しようとする農民の戦略を明確に示すことができた.
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