研究概要 |
本研究では,現行の会計基準における従業員ストック・オプションの費用計上の根拠を検討した.具体的には,契約理論に基づくモデル分析により,労働サービスと,その対価として付与される従業員ストック・オプションの比較を行った.その結果,付与時点,行使時点を問わず,また,経済的価値の次元でも公正価値の次元でも,労働サービスと従業員ストック・オプションが等価で交換されるとは限らないことを明らかにした.分析における新しい知見は次の通りであった.第一に,権利確定期間中でなく,その後の期間における労働サービスを期待してオプションが付与される可能性を指摘した.第二に,労働サービスを特定期間に分離できない可能性を指摘した.第三に,仮に労働サービスの期間分離の問題を回避したとしても,通常,労働サービスとオプションが等価でないことを指摘した.これらにより,労働サービスそれ自体を費用とする現行の会計基準のもとであれば,不適切な費用認識による,単純な留保利益の資本組入の可能性が示唆されたことになる.
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